過去の未払い残業代は給与と賞与のどちらで支払えばよい?

従業員が、実際には残業していたにもかかわらず、残業時間を過少に申告していたことが発覚しました。会社としては、過去にさかのぼって実際の労働時間を確認し、未払いとなっている残業代を従業員に支払いたいと考えています。

この場合、過去の給与を修正して「給与」として支払うべきでしょうか。それとも、過去分をまとめて「賞与(または一時金)」として支払うことも可能でしょうか。

回答

過去の未払い残業代は、「賞与」ではなく「給与(清算用の給与補正)」として支払う必要があります。それは労働基準法上の賃金支払の原則や税務・社会保険の手続き上、本来支払うべきであった時期の労働対価(=給与)として処理しなければならないためです。

労働基準法第11条および第24条において、残業代(割増賃金)は「労働の対価として定期的に支払われる賃金(給与)」と規定されています。そして賃金支払の原則(労基法第24条)で賃金は「毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と定められています。つまり残業代は各支給月ごとに確定する「給与」の性質を持つため、会社の任意で決める「賞与」として処理することは法律上認められません。

また賞与名目で処理した場合、次のような不整合・リスクが生じます。

社会保険:本来は各月の報酬(賃金)であるものを標準賞与額として処理すると、
     実態と乖離します。
     残業代は非固定的賃金であり、その増減のみでは随時改定(月額変更)の
     対象とはなりません(固定的賃金に変動がなければ、非固定的賃金の変動
     のみで等級差が生じても随時改定の対象にはならない)が、一括支給の時
     期(特に定時決定の対象となる4〜6月)や遡及支払の取扱いによっては、
     標準報酬月額への影響や届出の要否が問題となる場合があります。
     残業単価の遡及計算漏れや月額変更届の提出漏れは、後日指摘を受けるこ
     とがあるため注意が必要です。

所得税 :賞与に対する源泉徴収の算出方法(賞与用の税額表)を用いることになり、
     本来の賃金としての課税と処理が異なります。

割増賃金の算定基礎:
     賞与(臨時・年3回以下の賃金)は割増賃金の算定基礎から除外されるため、
     賃金の性質を持つものを賞与として処理すると、算定基礎の面でも整合性を
     欠きます。

以上から、名目・処理区分ともに「賃金(給与)」として、可能な限り各月の割増賃金の精算であることが明確になる形で支払うことをお勧めします。
(例:給与明細に「◯月〜◯月分 時間外手当差額」等と明記)

また遡る範囲は、賃金請求権の消滅時効に留意する必要があります。
2020年4月1日以降に支払期日が到来した賃金の消滅時効は労基法115条により「5年」とされましたが、附則143条第3項の経過措置で「当分の間は3年」とされており、5年へ移行する改正法・施行日はまだ公表されていません。
したがって、現時点では支払期日から3年分を基準に精算範囲を検討することになります。

なお過少申告の存在を知りながら放置していた場合、会社側も労働基準法違反(賃金未払)の責任を問われます。未払い分の清算と同時に、以下の見直しを行いましょう。

客観的な労働時間把握の徹底:
     自己申告だけに頼らず、PCのログオン・ログオフ時間、タイムカード、入退
     室記録などと乖離がないか定期的にチェックする仕組みを構築する。

過少申告が生じる組織風土の改善:
     「残業申請をしづらい空気」「残業=不真面目・手際が悪いという評価基準」が
     ないか点検し、上司への労働時間管理に関する教育を実施する。
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