テレワークと労災認定(裁判事例の増加)

在宅勤務中のけがや精神疾患が労災として認定されるケースがあると聞きましたが、どのような対応が必要ですか?

回答

■ 背景と問題点
近年、テレワーク(在宅勤務)が常態化するなか、従業員が業務中にけがをしたり、精神的負荷によりうつ病などを発症した場合に、労災認定がされるケースが増えています。
従来の「職場での事故」と違い、自宅が職場となるため、労災認定の判断がより複雑になっています。

■労災認定される主なケース
 ①業務中のけが(物理的な事故)
 → 例:自宅で業務に集中していた際に椅子から転倒し骨折など。
 ②長時間労働による過労(精神障害の発症)
 → 勤怠管理が曖昧な場合、労働時間の裏付け資料(PCログ、メール送信記録等)が鍵になります。
 ③業務に起因する精神的ストレス
 → 孤独感、上司とのリモートハラスメント(通称:テレハラ)などが引き金となるケースも。

■企業側の実務対応ポイント
 ①在宅勤務規程の整備
  ・労働時間、業務範囲、設備使用、災害時対応等を明確に。
  ・労災が起きた場合の報告フローも記載。
 ②勤怠管理の明確化
  ・打刻システム、PCログの取得、チャットツールでの出退勤報告を活用。
  ・「実際にどの時間に働いたか」が証明できるように。
 ③業務の範囲と指示系統を明示
  ・テレワーク中も上司の指示やタスク管理を徹底し、「私的作業」との区別をつける。
 ④メンタルヘルスケア
  ・孤立を防ぐため、定期的な1on1や相談窓口の設置。
  ・ストレスチェック制度の活用。

【判例①】テレワーク中の精神疾患発症 → 労災認定(東京地裁・非公開事例)
(概要)IT企業の社員が在宅勤務中、過重な業務と深夜勤務を繰り返し、うつ病を発症。 
    その後、自殺。会社は「在宅勤務なので管理外」と主張したが、PCログやチャ
    ット履歴から業務実態が確認され、労災が認定された。
(ポイント)
  ・自宅勤務中でも労働時間の把握義務が会社にある。
  ・客観的な労働時間の記録(ログ、履歴など)がカギ。

【判例②】テレワーク中心の業務 → 過労死(さいたま地裁令和3年3月17日)
(概要)建設コンサルタント企業の男性社員が、テレワーク中心の勤務形態で月100時間
    以上の残業。心疾患で急死。会社は勤務実態を正確に把握しておらず、労働時間
    の管理不備が問われた。
(判決) 「会社はリモート勤務であっても労働時間の実態を把握する義務がある」とし
    て、会社に損害賠償責任を認定。

【判例③】在宅勤務中の転倒事故 → 労災認定(広島労働局・2022年事例)
(概要)自宅でテレワークをしていた職員が、オンライン会議の準備中に椅子から転倒
    し、肩を骨折。自宅という私的空間での事故にもかかわらず、業務中の行為と認
    定され労災が認められた。
(ポイント)
  ・在宅勤務中であっても「業務の遂行中」であれば労災対象。
  ・自宅の作業環境の安全確保も、企業として指導が求められる。

■企業の実務対応ポイント
  ◎在宅勤務規程の整備 :労働時間、業務範囲、設備、事故時の対応など明文化。
  ◎勤怠管理の徹底 :打刻システム、PCログ、チャット報告などで労働時間を可視化。
  ◎メンタルヘルスケア :定期的な1on1面談、ストレスチェックの実施。
  ◎安全衛生指導 :自宅の作業環境の整備・椅子やデスクの選定についても助言。

☆☆☆参考リンク(一次情報・制度ガイド)☆☆☆
◇厚生労働省|テレワークガイドライン  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/guideline.html
◇厚労省|精神障害の労災認定基準(令和2年改正)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34888.html
◇裁判所|裁判例検索システム
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1
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