転勤を拒否する従業員への対応

7月1日付で大阪から名古屋への転勤を命じた従業員から、ご家族の事情により転勤を断りたい旨の申出を受けました。
対象従業員は大阪市内に一人で住んでおり、車で10分程度の場所に父親が一人で住んでいます(母親はすでに亡くなっている)。父親は数年前に重い病を患い入院し、今は回復しているものの、最近は少しずつ痴呆の傾向が見られるようになったそうです。このような状況で、現時点で同居もしてはいないものの、ゆくゆくは父親の面倒を見る可能性を考慮して、転勤を断りたいということです。
本件は、世間一般では転勤させる上での配慮が必要な状況でしょうか。また、どのような配慮をすることが考えられるのか等、アドバイスをいただければと思います。

回答

今回の転勤命令自体は、一般的に特段問題ないケースと考えます。

まず、転勤(を含む配置転換)命令が権利の濫用となる場合は以下の3点です。

 ①転勤命令に業務上の必要性が無い場合
 ②業務上の必要性があっても、不当な動機・目的がある場合
 ③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合

今回、①と②はクリアされている前提での回答となります(就業規則に転勤を命じる根拠規定があることが大前提で、その上で適正配置や人材育成、組織活性化等の明確な目的があっての転勤命令で、労働者に対し転勤先での業務内容や労働条件をきちんと説明できる必要があります)。

その上で、②労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益かどうかがポイントになります。
今回、従業員が転勤を断ろうとする理由として挙げているご家族(父親)の世話ですが、ご質問の内容を見る限り、現時点で従業員が日常的に父親の世話をしている状況ではなさそうです(お休みの日に世話をしたり、様子を見に行ったりということはあるかもしれませんが)。
ですので、実際に転勤によりどのような支障が出るのかは不明で、あくまでもご本人が今後どうなるかわからないという漠然とした理由での転勤拒否と思われます。
最近では、両親の介護や育児等の理由で転勤を拒否するケースが増えているといわれていますが、介護の場合は従業員が日常的に介護をしている状況でなかったり、子どもの受験の時期でそばを離れたくないという状況での転勤命令は、「通常甘受すべき」範囲に留まると考えられます。
今回のケースも、ご質問の内容で判断する限りは、一般的に転勤命令を出して問題無い状況と考えます。

配慮については、他の転勤命令時との整合性も考慮する必要がありますが、月1~2回程度であれば帰宅旅費を支給するくらいの対応はあるとよいかもしれません。


かつての転勤のイメージとは変わってきている?

かつては転勤することで出世の道が拓けたり、転勤に応えることが優秀な従業員としての判断基準の一つとされるケースがありましたが、昨今ではそのような価値観は崩れつつあり、転勤をネガティブに捉える人が増えているような気がします。
人事異動はどうしてもネガティブな部分にばかり焦点が当てられがちですが、そうではなく、あなたの諸事情を考慮しつつ、能力発揮に最適な場所への異動であるということを前面に出して、転勤のオファーをする時代なのかと思います。

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公開日: 労務管理 異動・出向・転籍

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