最高裁判決のポイントは?企業がおさえるべき「同一労働同一賃金」

先日、正規社員とアルバイトや契約社員など非正規社員の「待遇格差」に関する判決が最高裁において言い渡され、大きな話題となりました。

不合理な待遇格差を禁じる「同一労働同一賃金」が2020年4月に始まって以降、初の最高裁判決。働く人の4割近くに当たる2000万人超が、立場の弱い非正規となっているのが現状で、この判決は多くの企業や労働者に影響を与えると思われます。

 

【待遇格差をめぐる判決】

事案

原告 対象

判断

大阪医科薬科大学事件 大学のアルバイト秘書 賞与

×

正社員と職務内容に一定の相違があり、不支給は不合理ではない
メトロコマース

事件

駅売店の契約社員 退職金

×

日本郵便事件 日本郵便契約社員 年末年始勤務手当

正社員と職務内容に相当の相違があっても、手当の支給や休暇を与えないことは不合理
祝日給

夏期・冬期休暇

扶養手当

病気休暇

 

大阪医科大のアルバイト職員だった女性は賞与を、東京メトロの子会社で契約社員として駅売店で働いていた女性らは退職金を求め、いずれも認められなかった一方、各地の郵便局で集配業務などをしている日本郵便の契約社員らは扶養手当や年末年始勤務手当などが支払われるべきという結論を手にすることができました。

今回、明暗が分かれた形になりましたが、格差の大きな部分を占める賞与や退職金で訴えが退けられたことで全体としては非正規にとって厳しい内容となったかと思います。

 

ですが、賞与や退職金に関して最高裁は「不合理な格差と認められる場合はあり得る」とも指摘しています。今回のケースは、業務や責任の程度、正規社員への転換制度の有無などがポイントとなり、待遇格差は不合理ではないとの判断でしたが、全ての非正規に賞与や退職金が必要ないとしたわけではなく、各企業などにおける賞与、退職金の性質や支給目的を踏まえて検討すべきだと示しています。

 

この判決を受け、今回は、「同一労働同一賃金」がどのようなものなのかを改めて整理し、企業が取り組むべき対応について考察したいと思います。

 

■「同一労働同一賃金」とは?

「同一労働同一賃金」とは、パート社員や有期雇用契約の社員、派遣社員などの非正規の社員について、同じ職場で同じ業務内容をしている正規社員と比較して、賃金や待遇などの不合理な格差を設けることを禁止する考え方のことをいいます。

これは国が主導する「働き方改革」の一環で、今年4月から大企業に適用され、すでに各社が非正規社員の待遇改善を進めています。2021年4月からは中小企業にも適用されますが、コロナによる経営不振が待遇改善への足かせになりそうです。

 

■「同一労働同一賃金」の取組対象となる労働者

・パートタイム労働者

・有期雇用労働者

・派遣労働者

 

■2020年より変更された「同一労働同一賃金」の3つのポイント

(1)不合理な待遇差を禁止

同じ企業内において、正規社員と非正規社員との間のあらゆる待遇について、不合理な待遇差を設けることが禁止されました。

 

・待遇差が禁止される主な項目

項目

対応

基本給 能力や経験、成果などが実態に違いがない場合、正規社員と同一の賃金を支給することが必要です。
賞与 業績などへの貢献度が同じであれば正規社員と同一に支給が必要です。
各種手当

・職務手当

 

職務の内容が同じであれば正社員と同一に支給が必要です。

・通勤手当 正社員と同一に支給が必要です。
・精皆勤手当 支給基準が同一であれば正社員と同一に支給が必要です。
福利厚生

・食堂

・休憩室

・更衣室などの利用

要件が同一であれば、正社員と同一の利用や付与が必要です。
・慶弔休暇

・健康診断

休暇 勤続期間に応じて認められる法定外の休暇などは、勤続期間が同じであれば正社員と同様に付与します。
教育訓練 現在の職務に必要な技能・知識を習得するための教育訓練は、正社員と同一の職務内容であれば同一の教育訓練を実施します。

 

(2)待遇に関する説明義務を強化

非正規社員は、正規社員との待遇差の内容や理由について、事業主に説明を求めることができるようになりました。事業主は、非正規社員から求めがあった場合は、説明しなければなりません。この際、説明を求めた労働者に対し、解雇や減給など不利益な取扱いをしてはなりません。

 

(3)不合理な待遇差等に関する労使間のトラブル解決のため、行政による紛争解決援助制 度の利用が可能に。

都道府県労働局において、無料・非公開の紛争解決手続きを行います。労働者と事業主の間で不合理な待遇差等に関するトラブルが生じた場合、当事者の一方または双方の申出があれば、簡易・迅速にトラブルを解決する手段として活用することができます。

 

■企業はどう対応すればいいのでしょうか?

自社の状況が、法の内容に沿ったものか、確認することが必要です。もし、不合理な待遇差があった場合は、改善に向けた取組を行いましょう。

 

【取組の手順】

①労働者の雇用形態を確認する

非正規社員(パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)を雇用しているかを確認します。

 

②待遇の状況を確認する

非正規の区分(パートタイム労働者・有期雇用労働者など)ごとに、賃金(賞与・手当を含む)や福利厚生などの待遇について、正規社員と違いがあるかどうか確認します。

 

③待遇差がある場合、その理由を確認する

正規社員と非正規社員とで、働き方や役割などが異なるのであれば、それに応じて賃金(賞与や手当を含む)や福利厚生などの待遇差が生じることはあり得ます。そのため、待遇差が、働き方や役割などの違いに見合った「不合理ではない」ものとなっているかを確認します。

 

④待遇差がある場合、その差が「不合理ではない」ことを説明できるように整理する

事業主は、労働者の待遇の内容・待遇の決定に際して考慮した事項、正社員との待遇差の内容やその理由について、パートタイム労働者・有期雇用労働者から説明を求められた場合には説明することが義務付けられます。待遇差が「不合理ではない」と説明できるように整理しておきましょう。

 

⑤「不合理ではない」とは言いがたい待遇差=「法違反」が疑われる場合は改善する

大企業においては、早急に改善が必要です。また、中小企業であっても、就業規則や賃金規程を見直すには、非正規社員を含む労働者との話し合いが必要になるため、時間がかかります。ですが、改善しないままにしておくと、大きなトラブルになってしまうことも考えられますので、計画的に改善に向けた取組を進めましょう。

 

⑥改善計画を立てて取り組む

改善の必要がある場合は、労働者から意見を聴取し、目的が達成するまで取り組みましょう。

 

同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html

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