【10月】労務情報まとめ 同一労働同一賃金の最高裁判決/標準報酬月額の特例改定の延長/協会けんぽ一部捺印不要

こんにちは。年末調整の時期が近づいております。今年は申告書の改正などありますので、社内展開の準備に追われているご担当者様も多いのではないでしょうか。

今月はついに同一労働同一賃金に関する最高裁判決が下されました。今後の判断の基準となる判決です。また、コロナウィルス感染症の影響による変更も引き続きあります。それでは10月の法改正情報をお届けいたします。

 

 

「同一労働同一賃金」訴訟に最高裁判断

短時間労働者や有期 雇用契約 労働者などのいわゆる 非正規 社員 に賞与・退職金・諸手当・休暇を与えないことが「不合理な待遇差」にあたるかを争った訴訟について最高裁の判断が示されました。

 

1.大阪医科薬科大学事件(令2.10.13判決)

アルバイト職員への賞与の不支給につき、本件賞与の支給目的等に照らし、正職員との職務内容等の相違から(※)不合理ではないと判断されました。

※待遇ごとの目的に照らし、①職務の内容(業務の内容&責任の程度)、② 職務の内容・配置変更範囲、③その他の事情を考慮して、不合理かどうかを判断する(本件での根拠は労働契約法20条。現在は、パート有期法8条に移設)。

 

●本件での不合理性判断のポイント
・本件賞与の目的 正職員としての職務を遂行できる人材の確保とその定着
・職務の内容:正職員は、学内の英文学術誌の編集事務等、病理解剖に関する遺族対応等の業務があり、アルバイト職員との職務内容には一定の相違あり
・職務の内容・配置の変更範囲アルバイト職員には原則業務命令による配置転換はない
・その他の事情:教室事務員の業務の過半が簡便な作業であったため、業務を正職員からアルバイト職員へ置き換えてきたこと、 段階的な正職員への登用制度を設けていたこと

 

アルバイト職員への賞与の不支給以外に、正職員へ支給していた私傷病による欠勤中の賃金の不支給も不合理ではないと判断されました。

 

2.メトロコマース事件(令2.10.13判決)

有期雇用の契約社員Bへの退職金の不支給につき、本件退職金の支給目的等に照らし、正社員との職務内容等の相違から不合理ではないと判断されました。

 

●本件での不合理性判断のポイント ※判断要素は大阪医科薬科大学事件と同じ
・本件退職金の目的正社員としての職務を遂行できる人材の確保、その定着のためであり、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し支給される
・職務の内容:契約社員 B と正社員の業務の内容はおおむね共通するが、 休暇 ・欠勤等での販売員の不在分の補充やエリアマネージャー業務を行うのは正社員のみ
・職務の内容・配置の変更範囲 正社員は配置転換があるのに対し、 契約社員 B は業務の場所の変更はあっても業務の内容の変更はなく、業務命令による配置転換はない
・その他の事情:売店業務に従事する正社員は関連会社の再編や契約社員Bからの正社員登用で、他の部署への配置転換は困難という組織再編上の事情があったこと 、段階的な正社員への登用制度を設けており、相当数の登用実績もあったこと。

 

なお、本判決の補足意見では、「有期契約労働者がある程度長期間雇用されることを想定して採用されており、有期契約労働者と比較の対象とされて無期契約労働者との職務の内容等が実質的に異ならないような場合には」不合理とされることもあり得ると述べられており、注意が必要です。

 

3.日本郵便 (佐賀・東京・大阪 事件(令2.10.15判決)

非正規社員に年末年始勤務手当、祝日給、扶養手当、病気休暇、夏期冬期休暇を支給しないことは不合理になると判断されました。

 

●判決のポイント

13日の判決では退職金・賞与について職務内容等に違いがある」ため「不合理とまではいえない」とされたが、 諸手当の支給をめぐる争いである本件では 「職務内容等に違いがある」としながらも「待遇の趣旨を個別に考慮」した結果 、不合理であると判断が示されています。

 

①年末年始勤務手当

本判決において年末年始勤務手当は 、最繁忙期である年末年始の時期に勤務したことに対し、また実際に従事した業務の内容やその難易度に関わらず、支給される。したがって、非正規社員と正社員で職務内容に違いが認められても、年末年始の時期に勤務したという要件を満たした非正規社員に支給がないことは不合理である。

 

②祝日給

本判決において祝日給は、年始期間に特別休暇が与えられているにも関わらず最繁忙期に勤務したことに対し、通常勤務に対する賃金に所定の割増をして支給される。前記年末年始勤務手当と同様に所定の期間に勤務したことに対する代償であるため、非正規社員と正社員で職務内容に違いが認められても、所定の時期に勤務したという要件を満たした非正規社員に支給がないことは不合理である。

 

③扶養手当

本判決において扶養手当は、正社員は長期にわたり継続した勤務を期待されるので、扶養親族がある正社員の生活保障や福利厚生をはかることで長期・継続した雇用を確保する目的で支給される。したがって、非正規社員と正社員で職務内容に違いが認められても、扶養親族があり、かつ相応に継続的な勤務が見込まれる非正規社員に支給がないことは不合理である。

 

④病気休暇 (私傷病の有給休暇 )

本判決において病気休暇は、正社員は長期にわたり継続した勤務を期待されるので、その生活保障を図り私傷病の療養に専念させることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的で付与される。したがって、正社員と同業務に従事する非正規社員についても相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、日数に相違を設けることはともかく、私傷病による有給の病気休暇を与えないことは不合理である。

 

⑤夏期冬期休暇

本判決において夏期冬期休暇は、年次有給休暇や病気休暇等とは別に労働から離れる機会を与えることにより心身の回復を図るという目的で付与される 。その上で、雇用期間の定めのある非正規社員は「短期間の勤務」ではなく「業務の繁閑に関わらない勤務」が見込まれているため、非正規社員に夏期冬期休暇 が付与されないことは不合理である。

 

日経新聞 『 非正規に賞与・退職金なし「不合理」といえず 最高裁 』

日経新聞『契約 社員の手当・休暇格差「不合理」と判断 最高裁 』

 

(各判決)
大阪医科大学事件 令和元年(受)第1055号,第1056号 地位確認等請求事件 令和2年10月13日第三小法廷判決

 

メトロコマース事件 令和元年(受)第1190号,第1191号 損害賠償等請求事件 令和2年10月13日第三小法廷判決

 

日本郵便 大阪事件 令和 1( 受 )794 地位確認等請求事件 令和 2 年 10 月 15 日最高裁判所第一小法廷判決

 

日本郵便東京事件 令和 1( 受 )777 地位確認等請求事件 令和 2 年 10 月 15 日最高裁判所第一小法廷判決

 

日本郵便佐賀事件 平成 30( 受 )1519 未払時間外手当金等請求控訴,同附帯控訴事件 令和2年10月15日最高裁判所第一小法廷判決

 

 

子の看護休暇・介護休暇の時間単位での取得が可能に

育児や介護を行う労働者が子の看護休暇や介護休暇を柔軟に取得できるよう、育児・介護休業法施行規則等が改正され、時間単位での取得が可能となります。加えて、これまでは1日の所定労働時間が4時間以下の労働者はこれらの休暇が取得できませんでしたが、今回の改正により全ての労働者が取得可能になります。施行は2021年1月1日から。

 

厚生労働省『事業主の皆様へ 子の看護休暇・介護休暇が時間単位で取得できるようになります!』

厚生労働省『子の看護休暇・介護休暇の時間単位での取得に関する Q&A 』

 

標準報酬月額の特例改定の延長について

新型コロナウイルス感染症に伴う休業で著しく報酬が下がった方で一定の条件を満たす場合に、報酬が下がった次月から標準報酬月額を改定できる特例が延長となりました。延長により、令和2年8 月から12月の休業で報酬が下がった場合も特例改定の対象となりました(これまでは、令和2年4月から7月までの休業で報酬が下がった場合が対象)。
また、 既に特例改定を受けている方で、 8月に支払われた報酬の総額が 9月から適用される定時決定の標準報酬月額と比べて2等級以上低い場合は、9月から適用された定時決定を変更することができます。

厚生労働省『 健康保険・厚生年金保険料の標準報酬月額の特例改定を延長等します 』

 

協会けんぽへの届出書等 の取扱いについて

新型コロナウイルス感染症の感染防止等の観点から、適用事業所が日本年金機構に書面で提出する届出等においては当分の間、事業主の押印又は署名がない場合でも、届書を受理する取扱いとなりました。これを受け、協会けんぽへ提出される届出書等の取扱いについても以下の通り明らかとなりました。

 

《事業主から協会けんぽへ書面で提出する書類》
・別表「対象届出等一覧」の①の届書については、事業主の押印又は署名を省略可能。
・別表「対象届出等一覧」の②の届書(傷病手当金支給申請書、出産手当金支給申請書等)については、特に慎重に届出等の真正性を確認する必要があることから、引き続き事業主の押印又は署名が必要。ただし、次の例のように届出の真正性が確認できる場合は省略可能。

(例)
・法務局が発行する法人の印鑑証明書(写し可)又は印鑑カードの写しを届出等に添付する場合

・事業主の代理選任の届出の写しを届出等に添付する場合

 

《被保険者から直接協会けんぽへ書面で提出する書類》
・別表「対象届出等一覧」の③の届書(限度額適用認定申請書、任意継続被保険者資格取得届等)については、被保険者の押印又は署名の省略可能。
・別表「対象届出等一覧」の④の届書(療養費支給申請書、出産育児一時金支給申請書等)については、特に慎重に届出等の真正性を確認する必要があることから、被保険者の押印又は署名が必要。ただし、届出等の記載により給付金の振込口座が被保険者のものであることが確認できる場合は省略可能。(給付金を代理人が受け取る場合は、従来どおり被保険者の押印又は署名が必要。)

 

協会けんぽ『協会けんぽへの届書等の取扱いについて』

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