迫る消費税増税!給与担当者は「通勤手当」に注意するべし!
今回の消費増税の概要
2014年4月1日以来、5年6ヶ月ぶりの増税で、税率が8%から10%へと上がります。ただし、今回は「軽減税率」が導入され、(1)酒類・外食を除く飲食料品、(2)週2回以上発行される新聞で定期購読契約にもとづくもの、が軽減の対象品目となり、税率が8%の据え置きとなります。
増税は消費者に限らず、事業主・会社側にも多大な影響を生じさせます。例えば、小売業の現場では、レジの入れ替え作業が労力的、費用的に大変で懸念されることとして、ニュース等で報じられていたことは記憶に新しいかと思います。視点を「会社の部署」に向けるならば、営業部門や経理部門となりましょう。売上や経費等にダイレクトに関係します。
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ただ、人事(給与計算担当)部門も、それなりに影響があり、注意すべきことがあります。
営業や経理と比べると、一見関係ないようであって実は給与計算に影響があり、見過ごせない部分があります。それは、「通勤手当」です。
今回は、給与担当者として「通勤手当」の取り扱いで注意すべきことを説明していきたいと思います。
■そもそも「通勤手当」とは?
いわゆる「通勤手当」とは、通勤に要する費用を支弁するために支給される手当です。その「性質」をまとめると、以下のようになります(平成24年9月20日 第2回 社会保険料・労働保険料の賦課対象となる報酬等の範囲に関する検討会における『資料1』を参照)。
- 「労働の対償」として支払われるものとして、労働基準法上の「賃金」の一部である。
- 「最低賃金法」における「賃金」に該当しない。会社の時給等が最低賃金額を満たし、適法か否か調べる際は、通勤手当の金額を除外する必要がある。
- 源泉所得税上、通勤の手段や通勤の片道距離に応じて、非課税限度額がある。
公共交通機関・・1ヶ月当たりの非課税となる限度額は、通勤のための運賃・時間・距離等の事情に照らして、最も経済的かつ合理的な経路及び方法で通勤した場合の通勤定期券などの金額(15万円以下ならば、全額非課税となります。)
自家用車・・・1ヶ月当たりの非課税の限度額は、片道の通勤距離に応じて定まる。
例としては以下となります(所得税法9条及び所得税法施行令20の2を参照)
片道距離が2km未満の場合は全額課税
2km以上~10km未満の場合は1ヶ月当たり4,200円が非課税
10km以上~15km未満の場合は1ヶ月当たり7,100円が非課税
- 雇用保険料を計算する際の賃金に含める(非課税限度額は関係なし)。
- 社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料)に関する「標準報酬月額」を決定する際の「報酬」に含める(非課税限度額は関係なし)。
「通勤手当」は法律上、必ずしも支給すべきものではありませんが、約9割超の会社が支給をしている実態があります(「平成27年就労条件総合調査」を参照)。
■「通勤手当」の計算方法、変更について
「通勤手当」の計算方法は、当該会社における就業規則や給与規程に依るところとなりますが、以下で主な例を用いて考えることとしましょう。
1.公共交通機関で通勤をする場合
1ヶ月の定期代に相当する金額を「通勤手当」として支給するのが主流かと思います。相当額としては「実費」、「最寄駅から勤務地までの最短経路の1ヶ月定期代」、「6ヶ月定期代の1/6相当額」、等が考えられます。計算方法に違いはありますが、いずれにせよ、運賃や定期代には消費税がかかり、かつ軽減品目には該当しないため、増税に伴い値上がりすることになりますので、「通勤手当」の変更が必要です。
2.自家用車で通勤をする場合
例えば、「通勤距離×ガソリン単価」で計算・支給を行う場合、ガソリン代は運賃や定期代と同様、増税に応じて単価が上昇することになります。
かたや、ガソリン単価と連動しない計算式であれば、消費税の影響はありません。「片道の通勤距離が、◯km以上□km未満であれば、通勤手当は△△円」という支給形態が、その一例となります。これを採用する場合、「通勤手当の非課税限度額」を参考にして、支給金額を定めている会社が多々あるかと思います。
公共交通機関による通勤といえども、一律の金額を支給している場合は、消費税は関係がないため、増税を考慮する必要はありません。
もし変更を怠った場合
消費税の増税が実施される前に、給与担当者として、自社の就業規則や給与規程の「通勤手当」に関する条項や計算式を見直し、消費税と関係がないか、改めて確認してみましょう。消費税が影響する計算式であれば、「通勤手当」を一斉に変更する作業が必要となります。
変更を怠った場合、当該会社の就業規則・規程違反に留まらず、労働基準法にも抵触することにもなります。変更を怠ったことによる差額が少額だったとしても、労働基準法上の「賃金」に該当するため、24条との兼ね合いで問題となります。
24条では「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」とあり、賃金の支払いに関する重要な原則を謳っております。変更を怠ることは「全額払い」の原則に反することになるため、給与担当者として注意をしましょう。
通勤手当の金額変更を行う場合、それを正確に行い適切な時期に給与へ反映させることは当然のことといえますが、「変更それ自体」にも増して、給与担当者として、変更の情報を、どのように収集するかを考慮する必要もあります。該当する者に対して「一斉に」行う作業となるため、その段取りやアナウンスが大変重要となります。増税の時期が迫っているにも関わらず、まだ作業に着手できていない会社の担当者は、効率的な段取りや丁寧なアナウンスをも念頭において、業務を進める努力をしましょう。
まとめ
上記では該当者のみに言及をしましたが、この増税を機会に、通勤手当の『棚卸し』の意味も込めて、従業員全員に対して「通勤手当申請書」を提出して頂くこともよいかもしれません。該当者か否かの選別を行う煩雑な業務を省略しつつ、全員を対象として、「申請書の提出がなされているか」、「住所や通勤経路・手段に変更はないか」、等の精査を行うよい機会かと思います。
「通勤手当」変更後、日々の給与計算において注意すべきことは、以下となります。
※源泉所得税
増税に伴う、「非課税限度額に変更」はありません(増税は「消費税」、非課税限度額は「源泉所得税」に関するものであり、混同しないよう注意すること)。
自家用車の場合、通勤手当の増額に伴い、今まで非課税限度額で収まっていたところ、課税となる金額が生じる可能性も否定できません。
例えば、片道の通勤距離が5kmで、その距離にガソリン単価を乗じて「通勤手当」を計算・支給している会社において、今まで4,200円の範囲内に収まっていた手当が、増税を反映させたガソリン単価を乗じた結果、4,300円になった場合には注意が必要となります。4,200円を非課税、100円を課税に振り分ける必要があります。非課税と課税の区別をしっかり行い、月々の源泉所得税の金額を正確に算出し、正しい給与計算を行うようにしましょう。
※社会保険料
社会保険では「固定的賃金の変動」を意識する必要があります。すなわち「通勤手当」として、1ヶ月一律に支給しているもの(公共交通機関を通勤で使用している場合を想定)やガソリン単価に通勤距離を乗じて計算しているもの(自家用車での通勤を想定)のどちらにせよ、その変更は「固定的賃金の変動」に該当し、月額変更の契機となります。そのため、変更を反映・支給する給与から以後3ヶ月間の給与額を注視し、月額変更(等級差)が生じないかの確認を忘れないようにしましょう。
変更時だけに注意を払って安心するのではなく、月変の可能性を意識して、要件を満たす場合は、速やかに月額変更届を提出することとなります。
以上を踏まえ、給与担当者として、来る2019年10月1日の消費増税に備えましょう。
吉野 達哉
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