【受動喫煙防止法】事業者の分煙義務・助成金情報等 対策まとめ

記事の概要

・2018年7月、受動喫煙対策を強化する改正健康増進法(いわゆる「受動喫煙防止法」)が国会で成立しました。

・全面施行は東京五輪・パラリンピック開催前の2020年4月、職場・飲食店などについては原則禁煙となるため、事業者は対応を求められます。

・受動喫煙防止法の概要、受動喫煙と健康の影響、事業者の対策に支給が見込まれる助成金についてまとめます。

 

改正健康増進法の概要について

2018年7月18日に、改正健康増進法が成立しました。他人のたばこの煙で健康被害を受けることが無いよう、規制を強化し、望まない受動喫煙を無くすことが目的です。

具体的には、2019年夏ごろから学校や病院・保育園・行政機関等は敷地全体を禁煙とし、受動喫煙が起こらない屋外の所定の場所でのみ喫煙が認められることとなります。その他の施設においては2020年4月から規制が始まり、屋内喫煙については、国が定めた基準を満たす専用室を設けなければいけません。

厚生労働省 -受動喫煙対策 健康増進法の一部を改正する法律(平成30年法律第78号) 概要

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000189195.html

より進んだ対策に取り組む自治体

また、上記の法律の対応を進めるのみではなく、各地方都市にて、独自の受動喫煙対策の条例の制定・改正を検討する自治体も出てきました。

6月に東京都で、国の健康増進法より規制の対象範囲を広範にした「受動喫煙防止条例」が成立したことをはじめ、静岡県での条例新設の動きや、既に2010年に施行されていた神奈川県の条例の改正の方針が示される等、2020年五輪の競技会場がある地域を筆頭に、各自治体で受動喫煙防止の取組みを進める必要性が再確認されています。

国の受動喫煙防止法が“経営規模の小さい飲食店”を禁煙・分煙規制の対象外とする経過措置を盛り込んだ内容であることに対し、2018年7月20日に公表された東京都の「受動喫煙防止条例」では、事業主の他に従業員がひとりでもいる飲食店を禁煙・分煙の規制対象としています。

                                                                                                                         

東京都ウェブサイト -東京都受動喫煙防止条例

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kensui/tokyo/kangaekata_public.html

神奈川県ウェブサイト -かながわのたばこ対策

http://www.pref.kanagawa.jp/docs/cz6/cnt/f6955/

 

受動喫煙に関する厚生労働省の調査と国内外の動向

喫煙・受動喫煙の現況(平成28年度「国民健康・栄養調査」より)

平成28年度の調査では、喫煙の習慣がある人の割合は18.3%、直近10年間を比較すると年々減少している傾向にあります。

受動喫煙の状況については、20歳以上の非喫煙者が受動喫煙をする機会がある場所の統計が公表されています。平成28年度においては、「家庭」で受動喫煙をする機会があったと回答した人の割合は7.7%でしたが、「職場」では30.9%の人が、「飲食店」では42.2%の人が受動喫煙をしたと回答する結果となりました。

                                                                                                                         

                                                                                                                         

厚生労働省 統計調査「平成28年 国民健康・栄養調査の概要」

https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/kekkagaiyou_7.pdf

受動喫煙の健康への影響(平成28年度「たばこ白書」より)

平成28年8月に公表された厚生労働省の「たばこ白書」(喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書)は、たばこの健康影響について、およそ15年ぶりに作成された報告書で、受動喫煙と疾患の相関関係についても近年の調査研究に基づき評価をつけています。そのうち、受動喫煙との因果関係の根拠十分の疾病(その原因が受動喫煙のためであると推定できる根拠が十分に揃っている病気)は、成人の「脳卒中」「肺がん」「虚血性心疾患」、妊婦の受動喫煙による「乳幼児突然死症候群(SIDS)」、こどもの受動喫煙による「喘息の既往」が示されました。

同報告書の中で、日本社会全体における、受動喫煙者の医療費は1,431億円、喫煙関連疾病による労働力損失は2兆3,596億円と推計されました。こうした喫煙関連の経済損失の合計は4.3兆円に上る一方、喫煙が及ぼすプラスの経済的貢献(税収や産業の利益や賃金、他産業への波及効果)は2.8兆円に留まるとのことです。

                                                                                                                         

国立研究開発法人国立がん研究センター -たばこ白書の要点をまとめたリーフレットを作成しました

https://www.ncc.go.jp/jp/information/update/2017/0421/index.html

国内外の動向(事業者向けリーフレット抜粋)

従来の国内の法律・努力義務について

国内における職場の受動喫煙防止対策については、平成4年以降、労働安全衛生法に定められた快適職場形成の一環として事業者を指導するとともに、平成15年に健康増進法が施行されました。平成22年2月には、多くの人が利用する公共的な空間では、全面禁煙であるべきとの健康局長通知が出されています。

  • 健康増進法(平成14年法律第103号、平成15年5月1日施行)

第25条  学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない。

  • 厚生労働省健康局長通知 受動喫煙防止対策について(平成22年2月25日)(抜粋)

(1)施設・区域における受動喫煙防止対策  受動喫煙防止対策の基本的な方向性として、多数の者が利用する公共的な空間については、原則として全面禁煙であるべきである。

(2)全面禁煙が極めて困難である施設・区域における受動喫煙防止対策  当面の間、喫煙可能区域を設定する等の受動喫煙防止対策を求めることとし、将来的には全面禁煙を目指すことを求める。

国際的な動向について

たばこの消費及び受動喫煙が、健康、社会、環境及び経済に及ぼす破壊的な影響を減らすために、国ごとの個別の対応では限界があることから、世界保健機関(WHO)は、法的拘束力のある国際条約でたばこに関する規制を行うこととし、平成17年2月に発効しました。

日本もこの「たばこ規制枠組条約」の締約国であり、義務を負っています。

  • WHOたばこ規制枠組条約(平成16年6月批准、平成17年2月発効、平成23年3月現在172か国が批准)

第8条 たばこの煙にさらされることからの保護  1 締約国は、たばこの煙にさらされることが死亡、疾病及び障害を引き起こすことが科学的証拠により明白に証明されていることを認識する。

2 締約国は、屋内の職場、公共の輸送機関、屋内の公共の場所及び適当な場合には他の公共の場所におけるたばこの煙にさらされることからの保護を定める効果的な立法上、執行上、行政上又は他の措置を国内法によって決定された既存の国の権限の範囲内で採択し及び実施し、並びに権限のある他の当局による当該措置の採択及び実施を積極的に促進する。

  • WHOたばこ規制枠組条約第8条履行のためのガイドライン(平成19年7月採択)

100%禁煙以外の措置(換気、喫煙区域の使用)は、不完全である

すべての屋内の職場、屋内の公共の場及び公共交通機関は禁煙とすべきである

 

厚生労働省パンフレット「すすめていますか? たばこの煙から働く人を守る職場づくり」より抜粋

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/kitsuen/dl/241225_pamphlet.pdf

 

事業者に求められる対策のまとめ(独自条例の対象外地域の施設対策)

①学校・病院・児童福祉施設等、行政機関

2019年夏頃までに、「屋外を含む敷地内を禁煙とする」か、あるいは「屋外に分煙施設を設置する」か、どちらかの対策が必要です。

(施行日は、改正法公布日2018年7月25日から1年6ヶ月以内において政令で定められます。)

②旅客運送事業自動車(バス・タクシー等)・航空機

2020年4月1日までに、禁煙とする必要があります。

③事務所等上記1・2以外の多数者が利用する施設、旅客運送事業船舶・鉄道

2020年4月1日までに、「屋内禁煙を禁煙とする」か、あるいは「屋内(外)に飲食不可の喫煙専用室を設置する」か、どちらかの対策が必要です。

 

また、上記③の施設の経過措置として、

(1)当分の間の措置として、加熱式たばこ専用の喫煙室は、その内部での飲食可(20歳未満の立ち入り不可)」とできるまた、

(2)別に法律で定める間までの措置として、“既存の飲食店のうち経営規模の小さい店舗”(客席面積100平方メートル以下の、個人・中小企業が経営する既存飲食店)については、『喫煙可』等の標識を掲示し、20歳未満立ち入り不可とすれば、その他の禁煙分煙対策を講じなくとも法律違反にあたらないこととなります。

分煙対策に利用できる助成金(厚生労働省「受動喫煙防止対策助成金」)

所轄の都道府県労働局では、平成30年度の「受動喫煙防止対策助成金」の申請を受け付けています。

喫煙室の工事実施前に申請を行い、施工後に報告を提出する流れの申請で、経費の1/2(飲食店は2/3)、最大で100万円までの助成を受けられる制度です。

厚生労働省パンフレット「 『受動喫煙防止対策助成金』のご案内(平成30年度)」

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000207335.pdf

SRグループでは助成金申請代行も承りますので、お気軽にお問合せください。

 

記事のまとめ

2020年五輪・パラリンピック開催に向け、公共のスペースでの禁煙・分煙対策への機運が高まっています。法律の規制対象となる事務所の管理者となる方にとっては、2年弱以内での対応を迫られることとなります。一方で、スタッフの皆さまの健康リスクを見直し、経済的損失の機会を減らすチャンスと出来るかもしれません。

五輪開催までおよそ700日を残すところですが、月日の経過はあっという間です。早め早めの対策を講じ、余裕をもって職場環境の整備を進めておきましょう。

The following two tabs change content below.

mochida

(運用G所属)給与計算・社会保険手続業務を担当。人事労務のご担当者に伝わりやすい記事の作成を心掛けていきます。

最新記事 by mochida (全て見る)


公開日:

日常業務に関するちょっとした疑問から、コンプライアンス、人事戦略まで、お気軽にご相談ください。

無料労務相談のお申し込みは、以下のバナーからどうぞ!
無料労務相談のお申し込み
PAGE TOP ↑