平成30年10月から随時改定(月変)の保険者算定が始まる!法改正の内容から申請の方法まで解説
2018年10月1日より、今まで定時決定(算定基礎・算定)のみで行われていた保険者算定が、随時改定(月額変更・月変)でも適用されることとなりました。
平成30年10月改定以降の随時改定について適用されますので、固定的賃金が7月に変更された方から該当することとなります。
今回は法改正の内容と手続き方法についてご説明をいたします。
目次
1. 法改正の趣旨
健康保険及び厚生年金保険における標準報酬月額の随時改定に当たって、現行の随時改定による報酬の月平均額と、年間の報酬の月平均額とが著しく懸け離れている場合に配慮し、随時改定ができる基準を見直すこととされました。
つまり、業務の性質上、例年季節的に報酬が変動することにより、通常の方法によって随時改定を行うことが著しく不当であると認められる場合について、新たに保険者算定の対象とし、より実態に即した取扱いとなるようにというのが、本改正の趣旨となります。
①随時改定にも保険者算定を適用する理由とは
そもそも保険者算定(健康保険法41条、厚生年金法24条)とは…
報酬月額の算定の特例であり、通常定められた方法によって報酬月額を算定することが困難な場合や著しく不当である場合、実施機関が算定する額を標準報酬月額として決定する手続きのことを指します。
定時決定においては、以下の一定の理由等による場合に適用されております。
<一般的な算定方法が困難な場合>
・4月~6月に休職、産前産後休業・育児休業・介護休業等で報酬を全く受けていない ⇒ 従前の標準報酬月額を適用
・4月~6月の3カ月とも、支払基礎日数が17日未満のとき(パートタイマーを除く) ⇒ 従前の標準報酬月額を適用
<一般的な方法で算定すると著しく不当になる場合>
・4月~6月の平均報酬と、前年7月~当年6月の平均報酬の差が2等級以上生じる場合であって、業務の性質上例年発生することが見込まれる場合 ⇒ 申し立てにより過去1年間の月平均報酬月額を適用
・3月以前にさかのぼった昇給(降給)の差額分を4月~6月のいずれかの月に受けたとき(遡及差額) ⇒ 算定基礎月以前の昇給(降給)差額分を除いて計算
・4月~6月のいずれかの月に3月以前の月の給与の支払いを受けたとき(給与遅配) ⇒ 3月以前の遅配分を除いて計算
・4月~6月のいずれかの月の給与が7月以降に支払われるとき(給与遅配) ⇒ 遅配となった月を除いて計算
・低額の休職給を受けたとき(傷病などによる休職の場合) ⇒ 休職給と受けた月を除いて計算
・給与の締日が変更になり支払基礎日数が増加したとき ⇒ 超過分の報酬を除いて計算
一方、これまで月変においては、保険者算定のうち、遡及差額についてのみ適用されており、定時決定と同様に報酬の月平均額と年間の報酬の月平均額とが著しく乖離している場合がありました。
例えば、固定的賃金の変動月と繁忙期が重なっている場合などが挙げられます。
残業代が多く支給されるなど一時的に報酬が多くなっている状況で月変を行ってしまうと、繁忙期を過ぎた後の報酬と月変により改定された標準報酬月額との間に著しい乖離が生じてしまう状況が考えられます。
よって、今回の法改正により、業務の性質上、 例年季節的に報酬が変動することにより、 通常の方法によって随時改定を行うことが著しく不当であると認められる場合について、新たに保険者算定の対象とすることとなりました。
②「業務の性質上、 例年季節的に報酬が変動する」の意味
「業務の性質上、 例年季節的に報酬が変動する」とは、業種や職種の特性上、例年特定の期間が他の期間と比較して繁閑の差がある場合を指します。
例えば、人事労務担当者であれば、年末調整業務により毎年10月~12月は繁忙期にあたるかと考えられます。
例年、当該期間中の残業手当等が、他の期間と比べて多く支給されることが想定されますので、こちらは「業務の性質上、 例年季節的に報酬が変動する」状況に当たると考えられます。
よって、10月に固定給の上がった人事労務担当者が、10月~12月に残業代が多く支払われたことで、通常の月変では翌年1月以降の報酬月額と著しい乖離が生じると判断される場合には、保険者算定が適用することができることとなります。
なお、他の期間と繁閑の差がある「特定の期間」は3か月なくても良く、1か月でも問題ありません。
そのほか、例年特定の時期に非固定的賃金に係る報酬の変動が予想される業種等は、具体的に以下のようなものが挙げられます。
(1)特定の時期が繁忙期となる業種
・収穫期を迎える農産物の加工の業種
・取り扱う魚種の漁期により加工作業が生じる水産加工業等の業種
・夏・冬季に繁忙期を迎えるホテル等の業種
(2)特定の時期が繁忙期となる部署
・業種を問わず、人事異動や決算など特定の時期が繁忙期となり残業代が増加する総務、会計等の部署
(3)特定の時期の報酬平均が年間の報酬平均よりも低くなる業種
・夏・冬季に閑散期を迎えるホテル等の業種
より実態に即した取扱いとなるよう、定時決定と同様に随時改定においても、報酬の月平均額と年間の報酬の月平均額とが著しく乖離する場合には保険者算定を行えることとなったということです。
2. 法改正の内容
では、今回の法改正の内容についてご説明いたします。
随時改定の際に非固定的賃金の年間平均の保険者算定を適用することができるという今回の法改正ですが、具体的には以下のように行います。
①保険者算定の方法
(1)通常の随時改定の計算方法により標準報酬月額を算出する
随時改定対象者の固定的賃金の変動又は賃金体系の変更があった月以後の継続した3か月間の報酬の平均額を算出します
例)固定的賃金の変動月が8月の場合 ⇒ 8月~10月の3か月間の報酬の平均額を算出
(2)年間平均額から標準報酬月額を算出する
固定的賃金の変動等があった月以後の継続した3か月間の固定的賃金の平均額に、固定的賃金の変動等があった月前の継続した9か月、及び固定的賃金の変動等があった月以後の継続した3か月の間に受けた非固定的賃金の月平均額を加えた額から報酬の平均額を算出します
例)固定的賃金の変動月が8月の場合
8月~10月の3か月間の固定的賃金の平均額を算出 …a
前年11月~当年10月までの非固定的賃金の平均額を算出 …b
aとbを合算した額から報酬の平均額を算出 …年間平均額
*固定的賃金の変動月前に9か月の被保険者期間がない場合でも、少なくとも1か月以上の期間をもって年間平均額を算出します。また、入社して1年未満の被保険者も対象となります。
(3)(1)と(2)に2等級以上の差があるか否か確認する
(1)と(2)に2等級以上の差があり、以下に当てはまる場合は保険者算定の対象となります
・当該差が業務の性質上例年発生することが見込まれる場合
・現在の標準報酬月額と(2)との間に1等級以上の差がある場合
上記の条件を満たし保険者算定となった場合、(2)が新たな標準報酬月額となります。
本件具体例に当てはめますと、(1)が標準報酬月額380千円(健保等級26、厚年等級23)に対して、(2)が300千円(健保等級22、厚年等級19)であるため、(1)と(2)に2等級以上の差があります。
また、現在の標準報酬月額は220千円(健保等級18、厚年等級15)と考えられますが、対して(2)は300千円(健保等級22、厚年等級19)であるため、現在の等級と(2)との間に1等級以上の差があります。
よって、当該差が業務の性質上例年発生することが見込まれる場合には、保険者算定の対象となります。
②保険者算定の対象(注意点)
保険者算定の対象にあたるか否かについて、以下の通り注意点があります。
<随時改定が行われない場合>
・昇給時の(2)の等級が現在の等級と同等級又は下回る場合 ⇒ 現在の等級のままとなる
・降給時の(2)の等級が現在の等級と同等級又は上回る場合 ⇒ 現在の等級のままとなる
<保険者算定が行われない場合>
・非固定的賃金の年間平均の保険者算定の取扱いについては、単に固定賃金の変動または賃金体系の変更により変動前の報酬月額と著しい乖離し、その結果、通常の随時改定の方法により算出した標準報酬月額との間で2等級以上差が生じる場合
「単に固定賃金の変動または賃金体系の変更」とは以下のような場合が挙げられ、その結果、通常の随時改定の方法により算出した標準報酬月額との間で2等級以上差が生じる場合は、通常の随時改定による方法に基づき標準報酬月額を決定することになります。
・転居に伴う通勤手当の支給による変更
・定期昇給とは別の単年度のみの特別な昇給による改定
・業務の一時的な繁忙と昇給時期との重複による改定
なお、保険者算定によって算出した標準報酬月額について、以下に該当する場合は、(1)と(2)が1等級差でも保険者算定の対象となることがあります。
<健康保険>
① 特定の3か月の報酬月額の平均と昇給月又は降級月前の継続した9か月及び昇給月又は降級月以後の継続した3か月までの報酬月額の平均の、いずれか片方の月額が141.5万円以上、もう片方の月額が129.5万円以上135.5万円未満の場合
② 特定の3か月の報酬月額の平均と昇給月又は降級月前の継続した9か月及び昇給月又は降級月以後の継続した3か月までの報酬月額の平均の、いずれか片方の月額が5.3万円未満、もう片方の月額が6.3万円以上7.3万円未満の場合
<厚生年金保険>
① 特定の3か月の報酬月額の平均と昇給月又は降級月前の継続した9か月及び昇給月又は降級月以後の継続した3か月までの報酬月額の平均の、いずれか片方の月額が63.5万円以上、もう片方の月額が57.5万円以上60.5万円未満の場合
② 特定の3か月の報酬月額の平均と昇給月又は降級月前の継続した9か月及び昇給月又は降級月以後の継続した3か月までの報酬月額の平均の、いずれか片方の月額が8.3万円未満、もう片方の月額が9.3万円以上10.1万円未満の場合
3. 保険者算定の申立手続について
随時改定において非固定的賃金の年間平均の保険者算定を行うにあたっては、以下のように手続きを行います。
(1)非固定的賃金の年間平均の保険者算定の対象者も、報酬月額変更届にて届出をします
ただし、保険者算定対象者であることが確認できるよう、備考欄に、「年間平均」と記載することが必要です。
(2)添付書類として賃金台帳等の添付が必要です
非固定的賃金の年間平均の保険者算定の要件に該当するものであることを保険者が確認できるよう、年間平均を算出した期間に支払われた賃金がわかる書類を添付することが必要です。
具体的には以下の金額がわかる書類を添付いたします
*固定的賃金の変更があった月以後の継続した3か月の間に受けた固定的賃金
*固定的賃金の変更があった月前の継続した9か月及び、固定的賃金の変更があった月以後の継続した3か月の間に受けた非固定的賃金
(3)申立書と同意書の提出が必要です
以下2点を添付書類として提出することが必要となります。
・年間報酬の平均で算定することの申立書(随時改定用)
・健康保険厚生年金保険被保険者報酬月額変更届・保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較及び被保険者の同意等(随時改定用)
申立書は、非固定的賃金の年間平均の保険者算定の対象となる被保険者が、保険者算定の要件に該当すると考えられる理由を記載したものになります。
非固定的賃金の年間平均の保険者算定が可能な被保険者であったとしても、申立書がない場合は通常の報酬月額の改定のルールに基づいて標準報酬月額を決定することになります。
このため、非固定的賃金の年間平均の保険者算定を行う際には必ず申立書の提出が必要となります。
同意書は、保険者算定を申し立てることに関して、被保険者に不利益が生じることのないよう、被保険者から同意書を得ていることを明らかにするものになります。
被保険者の同意がない場合は、その同意がなかった被保険者の標準報酬月額については、通常の随時改定の方法に基づき標準報酬月額を決定することになります。
なお、同意書については、被保険者が毎回同意するとは限りませんので、その都度ご提出いただくことが必要となります。
4. おわりに
いかがでしょうか。
随時改定で非固定的賃金の年間平均の保険者算定を行う方法についてご理解いただけたでしょうか。
新しい制度に間違いなく対応できるか不安がある、もう少し詳しい話が聞きたい等ございましたら、下記ホームページの問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせくださいませ。
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