ビジネスネームで年末調整!?知らないで済まないビジネスネームの運用

 

芸能人であれば芸名、小説家であればペンネーム、接客業であれば源氏名…
様々な状況、理由で本名以外で働くという選択肢がございます。

 

身近なところでも結婚、週末起業、プライバシーの秘匿やビジネスの戦略の一つとして、ビジネスネームを利用して働いている人がいるものです。

 

もしかしたら自分もビジネスネームを利用する機会があるかもしれない…
もし自社の従業員にビジネスネームを利用したいと言われたら?

 

 

今回はビジネスネームを利用するメリットやデメリット、法律上の限界などをまとめてみました。

 

 

1. ビジネスネーム、法律上どこまでの使用が許される?

 

 

 

ビジネスネームとは、仕事上でのみ利用する本名とは異なる名前のことを言います。
結婚後に夫と同姓となった女性従業員が、旧姓のままで働いているような状況が想像しやすいでしょうか。

 

 

その他にも、以下のようなケースも考えられます。
・接客業などで従業員の身を守るために仮名やニックネームを利用している
・個人事業主などで運気を上げるため、あるいはお客様から覚えてもらいやすいように仕事上では名前を変えている
・副業が本業の関係者にバレないように別名を名乗っている 等々…

 

 

ビジネスネームの利用、それ自体は日本社会に根付いた慣習であると考えられます。
では、ビジネスネームの利用が問題となるような状況とはどのようなものが考えられるでしょうか。

 

 

それはもちろん、本名の提示が必要な状況でビジネスネームを用いた時でしょう。
極端な例を挙げるとすれば、 婚姻届けの本人氏名欄にビジネスネームを記載することは許されません。
戸籍は本名で登録されておりますので、ビジネスネームでは生年月日や住所と本人情報が合致せず、本人確認や正しい登録ができません。

 

 

もしくは相手との信頼関係が必要な時でしょうか。
法律には違反しないとしても、特にビジネス上では、本名を明かさない相手との関係はどうしても希薄になりがちです。

 

 

以上の考え方をもとに、利用範囲を整理してみましょう。

 

 

 

①社内向けの書類 【電話対応、名刺、辞令、領収書、給与明細】

 

 

婚姻等で本名が変わった際に旧姓を利用する理由としては「関係者に混乱を招くため」「名刺を作り直したり各種申請をし直すのが煩わしいため」などが考えられるでしょうか。
電話口での対応や名刺の記載がビジネスネームになると考えられますね。
それらは法律に違反しているのでしょうか。

 

 

結論から申し上げますと、電話での応対や名刺に関して本名を利用しなければならないという法律はございません。

ただし、法律には違反しませんが、本名を明かさないことで相手の信頼を損なう可能性はございます。

 

商談がまとまった後でいざ契約書を書こうという時に、相手の名前がそれまで聞いていたものと別のものであったと想像するとどうでしょうか。
ビジネスネームを利用することに関して、 納得してもらえる理由を事前に説明した方が無難でしょう。

 

また、本名とビジネスネームを両方明らかにしていないと、いざ知られていない方の名前で来客や電話があった場合に自分と結びつけてもらえない、などのトラブルが起きる可能性はありますので十分に気を付けまし ょう。

 

 

他にも、 辞令や領収書など社内で完結する書類等に関してのビジネスネームの利用が法律に違反するということはないでしょう。

ビジネスネームの周知は必要でしょうが、社内向けの書類であれば社内のルールに即していればいいのです。

 

 

なお、一見社内で完結しそうな給与明細に関しては、ビジネスネームの使用を禁止する会社もございます。
考えられるのは、システム上、給与明細の名前と源泉徴収票の名前が同一となってしまうような場合です。

 

源泉徴収票は必ず本名で発行する必要がありますが、それは何故だか説明ができますか?

 

 

②官公庁に提出する書類 【源泉徴収票、住民票、戸籍、保険証、登記、年金手帳】

 

 

源泉徴収票は必ず本名で発行する必要がございます。
源泉徴収票とはその年の収入を明らかにし、1年間に支払った所得税を調整するために発行されます。

 

毎月控除されている所得税は概算ですので、実際に支払うべき金額は1年間の収入が確定した年末に再計算を行うことで明らかになります。
多く支払った分は戻ってきたり、逆に足りない場合は追徴されたり …
この所得税の支払や調整を会社が行う場合を年末調整と言い、個人事業主や複数勤務などを理由として個人で行う場合を確定申告と言います。

 

 

さて、ここで源泉徴収票が本名とは異なるビジネスネームであったらどうなるでしょうか。
源泉徴収票に記載される氏名や生年月日、住所は本人確認のためにあるもの。
税務署に登録されているのは本名であり、 ビジネスネームで発行された源泉徴収票は同一人物のものとして認識されない可能性がございます。
そして最悪のケースとしては、別人として申告したとみなされ脱税を疑われます。
最低でも税務署から本人への確認と、本名での再発行が必要になるでしょう。

 

住民票や戸籍がビジネスネームで登録できないことと理由は同じです。
保険証ももちろん本名で発行しましょう。病院に行くときに困りますね。

 

 

登記に関してはどうでしょうか。

登記をする際には、個人の印鑑証明書が必要ですが、印鑑証明書はビジネスネームでの登録が出来ないのです。

故に、登記も本名で行う必要がございます。

 

 

予想以上のトラブルが起きる可能性がございます。
官公庁への提出書類は必ず本名で行うようにしましょう。

 

因みに、年金手帳は基礎年金番号で管理されているため、ビジネスネームへの変更はさておき、旧姓のままでも訂正は必要ございません。

 

 

 

③私文書へのビジネスネームの使用 【契約書、請求書】

 

 

では、契約書請求書にビジネスネームは利用できるでしょうか。
結論と致しましては、ビジネスネームで契約書を交わす行為自体が法律に違反するということはございません。

 

もちろん相手を騙そうとして本名とは別の名を騙ったというのであれば話は別ですが、通常利用しているビジネスネームを使用したというのであれば、私文書である契約書や請求書の効力が一切発しないということはないでしょう。

 

しかし、契約書の可否について争いが起きた時に、その契約書の効力を立証することが本名の場合よりも困難になります。
どうしてもビジネスネームを使用したいということであれば本名とビジネスネームの両方を併記することでトラブルを避けられるかと存じます。

 

 

また、例えば契約書に書かれた代表取締役名と、登記簿の写しにある代表取締役名が違うなら、会社は信用を失います。
取引額によっては、契約書に登記簿の写しを添付する事も多いですが、そこで契約書と登記簿の名前が異なるなどという状況は避けましょう。

 

ですので、私文書にビジネスネームを使用することは法律違反ではございませんが、契約書や誓約書など重要な書類は本名を利用した方が無難ではあるということになります。

 

 

 

④個人的な契約 【銀行口座、クレジットカード】

 

 

では、 会社とは直接関係ない銀行口座の開設やクレジットカードの契約をビジネスネームで行うことはできるでしょうか。

 

結論といたしましては、本名以外ではもちろん作れません。
それはやはり、本人確認ができないため。

 

官公庁向けの書類でも触れましたが、本名とビジネスネームを公的に結びつけることはできません。
「ビジネスネーム+本名」なら可能な銀行やクレジットカード会社もあるかもしれませんが…そうでなければ本名での登録が必要とされます。

 

 

 

ビジネスネームの利用に関してまとめますと、以下のようになります。

 

①基本的には本名の利用が無難
②理由がある場合は社内で完結するもののみに利用する
③対外的に利用する場合は本名との結びつけが可能で、相手の信頼を損なわないような注意が必要

 

 

2. ビジネスネームで自分を守る?

 

 

 

ビジネスネームは可能であれば使わない方が無難です。
何故なら、相手との信頼関係を結び難くなってしまうから。
本名でもビジネスネームでも関係ない!というような人は、その人自身に信頼されるに足り得る力があるのだと思います。

 

 

しかし、積極的にビジネスネームを利用したい、というケースもございます。
それは接客業やネットビジネス、副業など。

 

それらにおけるビジネスネームのメリットと法律上の限界はどこにあるのでしょうか。

 

 

①接客業とビジネスネーム 【ストーカー、いやがらせ被害】

 

 

飲食店の店員のネームプレートにニックネームが記載されていた、というような経験はないでしょうか。
ニックネームには接客において重要なお互いに親しみを感じるという効果のほかに、防犯の役割もあるのです。

例えば顧客に好意を持たれた時、逆に反感を持たれた時、個人に影響を及ぼさないための防波堤としてビジネスネームを推奨する会社もございます。

 

本名をフルネームで公開して接客を行っている場合、顧客と従業員の垣根を超えた好意を持たれた時、名前からほかの個人情報を調べられてストーキングの被害が拡大してしまいます。
また、悪意を持たれた時にいやがらせを受けてしまう可能性もあるでしょう。
個人と個人で相対する業種では個人情報を明かすことにリスクがあります。
個人に影響がないように本名の公開を避ける必要も時にはあるのです。

 

 

また、源氏名というと夜の世界を連想しますが、そこでも非日常感の演出という効果とともに、本人の保護という役割もあるのでしょう。
会社や知人にばれたくない事業や副業をしている…というような場合も本名を使用するわけにはいきませんね。

その場合ももちろん、先述した問題点には留意は必要です。

 

では相手の顔が見えづらいネットビジネスではどうでしょうか。

 

 

②ネットビジネスとビジネスネーム 【特定商取引法】

 

 

インターネット上でビジネスを行なうという場合もございます。
いわゆるネットビジネスというものですが、これを本名を明かさずに行うことはできるでしょうか。

 

結論から申しまして、ビジネスネームのみでネットビジネスを行うことはできません。

 

特定商取引法施行規則8条1号において「販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称」の記載が通信販売における必須項目として挙げられておりますが、これはつまりウェブサイトの運営責任者名を開示する必要があるということ。
さらに「販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称」とは、個人事業者の場合は戸籍上の氏名または商号登記上の商号を記載する必要がある、とするのが行政解釈です。

 

訴訟などの法的紛争が生じた場合に、当事者を特定することができないビジネスネームしか表示していないのでは、消費者保護に欠けることが大きな理由となります。

 

ただし、どうしてもインターネットで本名を表示したくないという場合は、請求により書面又は電磁的記録(電子メールなど)により遅滞なく提供する旨を表示すれば、広告上への本名の表示を省略できるとされています(特定商取引法11条ただし書)
この際にも消費者から要求があれば情報提供する義務はありますが、常にウェブサイトに表示する必要はございません。

 

もちろんこの場合も本名と別の名前を表示している旨を事前に伝え、説明の義務があるといえます。
顔の見えないネットビジネスだからこそ、信頼関係は大事にしたいですね。

 

 

3. おわりに

 

 

いかがでしたでしょうか。
知っているようで意外と知らない、ビジネスネームについてご確認いただけたでしょうか。

 

もしかしたら自分が、あるいは自社の従業員が今後ビジネスネームを利用する機会があるかもしれません。

その際にはビジネスネーム利用のメリットとデメリット、そして法律上の限界を知ったうえでの運用が必要になります。

 

 

堅実かつ柔軟に対応していきましょう。

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Ari

大小様々な規模の企業の社会保険手続きや給与計算業務に携わりながら、主に自分が知りたいことを記事にしている。業務効率化のためのツールも開発中。趣味は読書。某小さくなった名探偵マンガの主人公の書斎を再現することが夢。

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