[ストレスチェック] 制度開始から1年。現状とおさらいしたい制度のこと。
過重労働や過労死が問題視されている昨今、労働環境の見直しが強く求められています。
しかし、授業員が健康に働くために必要なのは、残業を抑えるだけではありません。
作業環境を清潔に保つこと、そして従業員の精神面も含めた健康状態を常に把握することが必要になります。
今回は従業員の精神面の健康状態を把握するために必要なことはなにか、制度開始から1年が経過したストレスチェック制度について今一度考えてみたいと思います。
1. 制度開始から1年。現状は?
本年1月16日に、ストレスチェック義務化1年目(2015年12月~2016年11月)の実施状況を、株式会社保健同人社と株式会社ヒューマネージが発表しました。(以下、発表結果を「本データ」と呼びます。)
・従業員のストレスチェック受検率(平均)は、88.4%。
・対象者全員が受検した企業も、6.5%存在。
厚生労働省の平成27年(2014年11月~2015年10月)のデータではメンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は59.7%と発表されていました。
厚生労働省のデータと本データでは調査方法が異なるとはいえ、2年連続6割前後の受験率で停滞していた状況を鑑みると、今後発表されるであろう厚生労働省のデータでも数字が上がっていると考えられるのではないでしょうか。
平成22年6月に厚生労働省が発表した新成長戦略によると、2020年にはメンタルヘルスに関する措置を受けられる事業所の割合を100%にすることを目標として掲げています。
つまり、現在は義務化されていない企業もいずれは対応しなければならないということ。
今一度ストレスチェックについておさらいしてみましょう。
2. そもそもストレスチェック制度とは何か
労働安全衛生法によって、事業者には労働者の安全、健康を確保することが義務づけられており、労働者の健康を確保するためには、清潔な作業場と労働者の健康状態の把握が必要とされています。
そして労働者の健康状態の把握の具体的な方法として、通常の健康診断(一般健康診断)のほかに特殊健康診断、臨時の健康診断、そして心理的な負担の程度を把握するための検査(=ストレスチェック)等が挙げられているのです。
労働安全衛生法 第66条の10
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
平成26年に公布された「労働安全衛生法の一部を改正する法律」(平成26年法律第82号)において、平成27年より常時50人以上の労働者を使用する事業者は労働者にストレスチェックを受けさせることが義務となりました。
また厚生労働省は、従業員50人未満の事業所については当分の間努力義務とするとしているため、いずれは全ての企業で義務化されると予想されます。
なぜこのような制度が新設されたのかというと、仕事や職業生活に関して強い不安、悩み又はストレスを感じている労働者が5割を超え、なおも増え続けている昨今の現状に理由があります。
平成18年に厚生労働省は「メンタルヘルス指針」を公表し、「メンタルヘルスケア」の実施を促進してきましたが効果がみられず、今回法律を一部改正し義務化まで踏み切ることとなりました。
なお、労働者がメンタルヘルス不調になることを未然に防止する「一次予防」が特に重要視されているため、現在大きな悩みや不安があるかどうかに関わらず、全ての労働者がストレスチェックを受けることが望ましいとされています。
定期的なストレスチェックを通じて本人に自らのストレスの状況についての気付きを促し、検査結果を集団ごとに集計・分析し職場環境の改善につなげることで、ストレスの要因そのものを低減するよう努めることを事業者は求められているのです。
3. ストレスチェックのやり方、注意点とは
労働安全衛生規則には、ストレスチェックの方法が規定されています。
労働安全衛生規則 第52条の9
事業者は、常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に、次に掲げる事項について法第66条の10第1項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
一 職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する事項
二 当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
三 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目
事業者は一般健康診断と同様、従業員に対し1年以内ごとに1回、定期に医師等によるストレスチェックを行うことを義務付けられています。
また、その検査項目は労働基準法が順守されているかなどではなく、何かしらの理由でストレスを感じていないか、同僚から協力を得られているかなどを確認する内容になります。
検査を受ける労働者の心理的な負担を考慮して、労働者にストレスチェックを受ける義務はないこと、医師などは、あらかじめ労働者の同意を得ていない場合は検査の結果を事業者に提供してはいけないことなどから鑑みても、検査の内容のみならずその方法までもが労働者一個人に寄り添ったものになっていることが分かります。
では、労働者にストレスチェックを受けさせた後に、事業者にするべきことはあるのでしょうか。
実はあります。
事業者には検査の結果の通知を受けた後、要件に該当するとされた労働者が、医師による面接指導を受けることを申し出た際に、遅滞なく面接指導を行う義務があります。
もちろん、労働者が面接指導を申し出たことを理由とする、労働者に対する不利益な取り扱いは認められません。
そして面接指導の結果に基づき、労働者の健康を保持するために必要な措置について医師の意見を聴き、適切な措置を講じなければなりません。
これがストレスチェックを通じて本人に自らのストレスの状況についての気付きを促し、ストレスの要因そのものを低減するよう努めるという一連の流れとなるのです。
労働者の属する労働環境によっては、ストレスチェックそのものではなく、検査後の環境改善の方が重要とも考えられますね。
ストレスチェック制度が全ての事業所で実施された場合、メンタルヘルス不調になることを未然に防止する「一次予防」よりも、メンタルヘルスの早期発見、適切な対応を行う「二次予防」や、メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援する「三次予防」がより求められる時代がやってくるのかもしれません。
むしろ現段階でストレスを感じている労働者が5割を超えているのだから、未然の予防とともに環境の改善が両方求められてしかるべきなのでしょう。
4. おわりに
実はストレスチェックのみならず、健康診断においても面接指導、意見聴取、必要な措置を講ずることが労働安全衛生法によって事業者に義務付けられています。
これは長時間の残業や休日出勤によって、疲労の蓄積がみられる労働者に対して行われるものとされています。
健康診断及びその結果に対する措置は、既に全ての事業所で義務化されていますが、果たして有効に活用されていると言えるのでしょうか。
ストレスチェック制度が全ての事業所に浸透した時、義務化された前と後で労働者の心理的な負担は軽減しているのでしょうか。
従業員が健康に働ける職場作りに必要なものは何か、事業者の目線と労働者の目線の両方で今一度考えてみてください。
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参考、引用元
・厚生労働省 厚生労働分野における 新成長戦略について
労働安全衛生法の一部を改正する法律(平成26年法律第82号)
心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針
(平成27年11月30日心理的な負担の程度を把握するための検査等指針公示第2号)
平成27年 労働安全衛生調査(実態調査)
・株式会社保健同人社 ストレスチェック義務化1年目の実施状況
Ari
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