【7月10日期限】出向者の年度更新

今年も年度更新が近づいてきました。これからの時期、住民税更新、算定基礎届提出と、人事担当者には年次イベントが続く時期となります。

そこで、今回は労働保険料の年度更新を取り合上げ、その中でも注意が必要な出向者の取り扱いを解説します。労働保険料申告業務に取り掛かる前に、是非ご一読いただき、適切なスケジューリングをし、期限を守って正しく申告してください。

◆出向者

・出向とは?

出向とは、出向元企業(以下、「出向元」)との雇用契約は維持されたまま、従業員が別の企業(=出向先企業、以下「出向先」)へ異動し、勤務することを意味します。一般的には出向元の子会社や関連会社に出向するケースが多く見られます。

これは、「在籍出向」のケースを指します。この他に、出向元との雇用契約を解消した上で転籍する「移籍出向」という形も存在します。

 

・在籍出向と移籍出向

  • 在籍出向出向元に籍を残したまま別の企業に勤務することで、一般的に出向というとこちらを指すこととなります。在籍出向の場合、雇用主は出向元のままで指揮命令権は出向先が持つことになります。
  • 移籍出向:出向元と出向先が転籍契約を結ぶことにより、従業員の籍が出向先に転籍されます。従業員は、出向先との間に新しく労働契約を結び(雇用主は出向先になります)、出向元との労働契約を解消します。いわゆる転職のような形になります。

 

以降、出向については「在籍出向」として解説します。

 

・給与の支払いは?

出向元と出向先、両者と二重に労働契約を結ぶことになるのが在籍出向ですので、その性格上、両社間の出向契約の内容によって、給与、待遇や就業規則等について、どちらの企業側のものを適用するかが異なります。

しかしながら、在籍出向する従業員の籍は出向元のため、給与の支払いは出向元が行うケースがよく見られます。その上で、出向元は出向者分の人件費(給与、社会保険料の会社負担分等)を出向先に請求する形となります。このような形で、実質的に出向先が出向者の人件費を負担するのが一般的です。

なお、出向元・出向先の人件費の負担割合は出向契約の内容に依ります。

 

・在籍出向と労働者供給の関係

労働者供給とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受ける労働に従事させることを指します。労働者供給を「業として行う」ことは、職業安定法第44条により禁止されています。

在籍出向は出向先へ従業員を出向させることから、労働者供給に該当します。しかし、いずれかの目的があるものについては、基本的には、「業として行う」ものではないと判断されます。

  • 労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する
  • 経営指導、技術指導を実施する
  • 職業能力開発の一環として行う
  • 企業グループ内の人事交流の一環として行う 等

 

【参考:「在籍出向“基本がわかる” ハンドブック」】

https://www.mhlw.go.jp/content/000739527.pdf

 

 

◆年度更新

・年度更新とは?

保険年度における労働保険料を計算し、申告・納付することを、「年度更新」と呼びます。

労働保険(労災保険&雇用保険)の保険料は、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間(これを「保険年度」といいます。)を単位として計算されることになっています。その額はすべての労働者(雇用保険については、被保険者)に支払われる賃金の総額に、その事業ごとに定められた保険料率を乗じて計算します。

労働保険では、主に①概算の保険料と②確定した保険料の金額を計算することになります。

この年度更新の手続きは、毎年6月1日から7月10日までの間に行わなければなりません。手続きが遅れますと、追徴金を課されることがありますので、期日内に必ず手続きを完了できるように、スケジューリングをしましょう。

 

・年度更新の内容

労働保険では、次の項目の計算が必要になります。

  • 概算保険料

今年度(2021年4月1日~2022年3月31日)の概算の保険料です。

昨年度の賃金総額を基に、今年度の概算の保険料を計算します。

  • 確定保険料

昨年度(2020年4月1日~2021年3月31日)の確定の保険料です。

昨年度の賃金総額を基に、確定した保険料を計算し、昨年納付した保険料との差額を精算する手続きになります。

  • 一般拠出金

「石綿による健康被害の救済に関する法律」により石綿(アスベスト)健康被害者の救済費用に充てるため、事業主が負担するものです。業種を問わず、料率1000分の0.02となります。

 

・申告方法、納付先

「労働保険概算・確定保険料/石綿健康被害救済法一般拠出金申告書」を作成し、その申告書に保険料等を添えて、金融機関、所轄都道府県労働局又は労働基準監督署に、6月1日から7月10日までの間に提出します。

 

【参考:厚生労働省HP「労働保険の年度更新とは」】

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudouhoken01/kousin.html

 

◆出向者の年度更新の取り扱い

・労災保険について

出向者が出向先の組織に組み入れられ、出向先事業主の指揮命令を受けて労働に従事する場合、安全配慮の義務は出向先にあります。そのため、年度更新における労災保険料の計算にあたっては、出向先が申告することとなります。

この場合、事務手続きとしては、まず出向元が出向先へ対象となる出向者へ支払った賃金に関する情報を通知します。出向先は、その情報を支払った賃金総額に含めて計算し、申告・納付します。

 

・雇用保険について

出向元と出向先の2つの雇用関係があることから、雇用保険については、主たる賃金の支払いをする側の企業が申告することとなります。出向者の賃金を出向元が支払っている場合は、出向元の企業に保険料の申告・納付義務があります。出向元が支払っている賃金を基準にして出向元が雇用保険料を負担することになります。

 

 

◆まとめ

労働保険料の計算において、出向者がいる場合、出向者の賃金に関する情報の受け渡しが出向元、出向先間で生じますが、場合によっては、これに時間を要するケースがあります。一方、労働保険料は申告期間が決まっています。(毎年6月1日から7月10日)情報の受け渡し期間を含めたスケジューリングを心がけましょう。

また、出向者が多く、出向期間がばらばらの場合、相手企業に提供する賃金情報を集計するのも煩雑になります。この作業時間も考慮する必要があります。

正しく計算の上、期限内に申告・納付をしましょう。

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