【注目】2020年の人事労務系 法・制度改正&2019年のトピック振り返り

2020年がはじまり、早くも1月半ばが過ぎようとしていますが、昨年どのような法・制度改正があったか・今年どのような法・制度改正があるのか、きちんと把握できていますか?昨年末までにしっかりと対策をしたつもりでも、案外見落としがあるかもしれません。そこで今回は2019年の振り返り・2020年の予習と称しまして重要な法・制度改正をまとめてみました。

 

年末休暇の間に溜まった業務が一段落したところで、重要な改正を追ってみましょう。

 

1.2019年人事労務系トピック振り返り

「働き方改革」関連法案関連

(1)時間外労働の上限規制の適用(2019年4月~施行、中小企業は2020年4月から)

時間外労働(休日労働は含まず)の上限が、原則として、月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情(36協定の特別条項)がなければ、これを超えることはできなくなりました。

臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、

  • 時間外労働 ・・・年720時間以内
  • 時間外労働+休日労働 ・・・月100時間未満、2~6か月平均80時間以内

とする必要があります。

原則である月45時間を超えることができるのは、年6か月までです。

<関連記事>時間外労働上限規制「適用除外」の注意点とは?

 

(2)年次有給休暇(年5日)の時季指定付与義務化

年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられました。

<関連記事>助けて!従業員が年次有給休暇を取得しないの!

 

(3)勤務間インターバル制度の導入(努力義務)

労働者のワーク・ライフ・バランスを保ちながら働き続けることを目的として、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保することが事業主の努力義務となりました。

<関連記事>勤務間インターバル制度の設計を行う際の注意点とは?

 

(4)労働時間の状況の把握

長時間労働やメンタルヘルス不調などにより、健康リスクが高い状況にある労働者を見逃さないため、事業者は労働者の労働時間をタイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録等の客観的な方法、その他の適切な方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければなりません。

また、これらの方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための必要な措置を講じなければなりません。

 

(5)高度プロフェッショナル制度の導入

働き方改革の1つとして、多様な働き方を推進する為に創設されました。高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象として、年間104日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講ずることにより、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定の適用を除外出来るようになりました。

 

(6)フレックスタイム制の清算期間の見直し

フレックスタイム制は、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることによって、生活と業務との調和を図りながら効率的に働くことができる制度です。

より柔軟な働き方の選択が可能となるように、フレックスタイム制の清算期間の上限が1ヶ月から3か月になりました。

 

健康保険・厚生年金保険関連

届出等における添付書類及び署名・押印等の取扱いが変更になりました

事務手続きの負担の削減のため、年金事務所に提出する届出等における添付書類及び被保険者等の署名・押印等の取扱いが、以下のとおり変更となりました。

  • 遡及した届出等における添付書類(賃金台帳の写し及び出勤簿の写し)の廃止
  1. 60日以上遡る場合の資格取得(喪失)届・70歳以上被用者該当(不該当)届
  2.  60日以上の遡り、または5等級以上引き下がる場合の月額変更届

 

  • 被保険者本人の署名・押印等の省略

事業主が、被保険者本人の届出の意思を確認し、届書の備考欄に「届出意思確認済み」と記載した場合は、被保険者本人の署名または押印を省略することが可能となりました。(電子申請及び電子媒体による届出においては、備考欄に「届出意思確認済み」と記載すれば委任状の省略が可能)

  1. 被扶養者(異動)届・国民年金第3号被保険者関係届
  2. 年金手帳再交付申請書
  3. 養育期間標準報酬月額特例申出書・終了届

 

雇用保険・労働保険関連

(1)65歳以上の雇用保険、「週20時間」の要件緩和を検討

高齢者の就労機会拡大に対応するため、65歳以上の雇用保険の適用条件を緩和する方向での検討が始まりました。

現在は雇用保険に加入するには1社で週20時間以上という条件がありますが、これを65歳以上の場合には限定的に、複数職場で合算し20時間以上となれば対象となるように緩和されます。2020年の通常国会で改正案を提出予定。

 

(2)労災認定 副業や兼業の労働時間も合算 制度見直しを検討

労災を認定する際に複数の事業所の労働時間を合算できるよう制度を見直すとする検討が始まりました。

今の労災保険の制度では1つの事業所における労働時間などに基づいて労災を認定するため、複数の事業所で働いている人に十分対応できていないと指摘されていました。また、給付額も複数の事業所における賃金を合算して決めるとしいてます。2020年の通常国会に労災保険法などの改正案を提出予定。

 

その他

(1)4月より労働者代表選出規定が強化されました

労働者代表の要件に、以下の要件が追加されました。

  1. 使用者の意向で選出された者でないこと
  2. 協定の事務を円滑に行えるよう使用者が配慮すること

<関連記事>従業員代表の選出における投票権の対象者範囲はどこまで?

 

(2)労働者が101人以上の事業主への一般事業主行動計画の策定義務付け他(女性活躍推進法)

改正女性活躍推進法が2019年6月5日に公布されました。一般事業主行動計画の策定義務の対象拡大ほか、主な改正内容は次のとおりです。

 

労働者が101人以上の事業主に、以下の2点が義務付けられます。(2022年4月1日施行)

  • 一般事業主行動計画の策定・届出
  • 自社の女性活躍に関する情報の公表(厚生労働省令で定める項目から任意の1項目以上)

 

労働者が301人以上の事業主に、情報公表項目について以下の二つの区分から1項目以上を公表することが義務付けられます。(2020年6月1日施行)

  • 職業生活に関する機会の提供に関する実績
  • 職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績

 

女性活躍に関する取組が特に優良な事業主に対する特定認定制度の創設(2020年6月1日施行)

現状の「えるぼし認定」よりも水準の高い「プラチナえるぼし(仮称)」認定を

創設。認定を受けた企業は、厚生労働大臣が定める認定マークを商品などにつけることができます。

 

(3)介護・子どもの看護休暇 1時間単位の取得も可能に

現在は半日単位で取れる介護休暇と子どもの看護休暇について、原則1時間単位で取れるよう育児・介護休業法の施行規則などを改正する方針を決定。

パートタイム労働者など1日の所定労働時間が4時間以下の人についても、今回の改正で1時間単位の介護、看護休暇が取れる対象に含める方針。(2021年1月1日施行)

 

2.2020年注目法・制度改正

03月30日より

職業紹介における求人の不受理(職業安定法関係)

就職後のトラブルの未然防止を図るためハローワークや職業紹介事業者等において、一定の労働関係法令違反(※)の求人者等による求人を受理しないことが可能となりました。

<出典>厚生労働省:職業紹介における求人の不受理【職業安定法の改正】

 

(※)労働関係法令違反の程度

  • 労働基準法及び最低賃金法のうち、賃金や労働時間等に関する規定
  1. 過去1年間に2回以上同一条項の違反について是正指導を受けている場合
  2. 対象条項違反により送検され、公表された場合
  3. その他、労働者の職場への定着に重大な影響を及ぼすおそれがある場合

(社会的影響が大きいケースとして公表された場合等)

  • 職業安定法、男女雇用機会均等法及び育児介護休業法に関する規定

法違反の是正を求める勧告に従わず、公表された場合

 

04月01日より

65歳以上労働者の雇用保険料免除措置を廃止、保険料徴収開始

平成29年1⽉1⽇以降、65歳以上の労働者についても、「⾼年齢被保険者」として雇⽤保険の適⽤の対象となり、かつ保険料の徴収は免除されていましたが、2020年4月1日より免除が廃止となり、徴収が開始されます。

 

特定法人の電子申請義務化

政府全体で⾏政⼿続コスト(⾏政⼿続に要する事業者の作業時間)を削減するため、特定の法人の事業所が社会保険・労働保険に関する一部の手続を⾏う場合には電子申請で⾏うことが義務化されます。

ただし、2020年4⽉以降に開始される各特定の法⼈の事業年度から適用されます。また、社会保険労務士や社会保険労務士法人が、対象となる特定の法⼈に代わって⼿続を⾏う場合も電子申請を行うことが義務となります。

 

特定の法人とは…

  • 資本⾦、出資⾦⼜は銀⾏等保有株式取得機構に納付する拠出⾦の額が1億円を超える法人
  • 相互会社(保険業法)
  • 投資法人(投資信託及び投資法⼈に関する法律)
  • 特定目的会社(資産の流動化に関する法律)

 

一部の手続とは…

健康保険・厚⽣年⾦保険

  • 被保険者報酬月額算定基礎届
  • 被保険者報酬月額変更届
  • 被保険者賞与支払届

労働保険

継続事業(一括有期事業を含む。)を⾏う事業主が提出する以下の申告書

  • 年度更新に関する申告書(概算保険料申告書、確定保険料申告書、一般拠出⾦申告書)
  • 増加概算保険料申告書

雇用保険

  • 被保険者資格取得届
  • 被保険者資格喪失届
  • 被保険者転勤届
  • ⾼年齢雇用継続給付支給申請
  • 育児休業給付支給申請

 

非正規労働者に対し不合理な待遇差を禁止 他(中小企業は2021年4月1日)

事業主は、短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他のあらゆる待遇について、通常の労働者の待遇との間に不合理とみられる相違を設けることが法律で禁止となります。

また、事業主は、短時間労働者・有期雇用労働者から、正社員との待遇の違いやその理由などについて説明を求められた場合は、説明を行う必要があります。

<関連記事>同一労働同一賃金のご対応はお済ですか?

 

健康保険被扶養者認定における国内居住要件の新設

被扶養者認定の要件として、「国内に住所を有していること」が追加されました。ただし、日本に住所を有しない場合でも、日本に生活の基礎があると認められるものについては、被扶養者認定要件を満たすこととされます。

<出典>協会けんぽ:被扶養者認定における国内居住要件の新設について

このため、施行日において国内に住所を有さない被扶養者は、原則として削除の届出が必要となります。

<関連記事>【2020年4月改正アリ!】健康保険被扶養者手続きのおさらい

 

06月01日より

パワハラ対策義務化(中小企業は2021年4月1日から)

セクシャルハラスメント、マタニティハラスメントに続き、パワーハラスメントの対策が企業の義務となります。具体的内容は検討段階ですが、現段階で以下のポイントを押さえる必要があるでしょう。

  • 職場のパワハラ防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務に
  • 事業主が講ずべき措置の具体的内容等については、セクハラやマタハラと同様以下のようなことが想定される
  1. 事業主によるパワハラ防止の社内方針の明確化と周知・啓発・苦情などに対する相談体制の整備
  2. 被害を受けた労働者へのケアや再発防止
  • 大企業は2020年6月施行、中小企業は2022年4月施行の見通し

<関連記事>【2020/6/1から】パワーハラスメント防止措置義務化、具体例と会社がとるべき対策について

 

10月01日から

年末調整申告手続きの完全ペーパーレス化

保険料控除申告書/住宅借入金等特別控除申告書の証明書を、紙に替えてデータ(「電子的控除証明書」)添付にて提出することが可能となります。そのため、従業員(給与所得者)から給与支払者への年末調整控除申告・電子的控除証明書のための「年末調整ソフト」が国税庁から無償提供される予定です。

申告書の提出を受ける給与支払者は、税務署への事前届出や、給与システムとの連携等の準備をすることで、年末調整事務の削減が可能となります。

<関連記事>【令和2年10月から】年末調整控除申告の電子化のススメ

 

まとめ

2019年はやはり「働き方改革」関連法案の施行が特徴的でしたね。「働き方改革」関連法案の対応は2020年以降も必要となりますが、その対応に追われている間にも次々と新しい法・制度改正の情報は飛び込んできます。

それらを逐一確認・対応することはもちろん必要なことですが、大変ですよね。社会保険労務士法人 人事部サポートSRでは、クライアントに最適な法・制度改正への対応方法をご提案しております。頼れる社外の相談役をお探しの方、ぜひお問い合わせください。

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吉田はづき

熊本から上京して新卒で社労士法人人事部サポートSRにジョイン。給与計算も社保手続きもまだまだ修行中ですがお客様に寄り添った提案ができるように日々精進。新しいものが大好きなので人事労務系の情報収集には自信があります。好きなものは生牡蠣、ホヤ、アメコミ、カメラ。

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