厚生年金パート適用拡大「50人超」の案 有力 ~迫られる中小企業の対応~

厚生労働省は11月13日、パートなどの正社員ではない短時間労働者に対する厚生年金の適用を拡大する方針を発表しました。これまでも年金財政の課題を解決するために厚生年金の料率改定や適用拡大が行われてきましたが、ついに50人超の企業について適用拡大を行う検討が進められています。

企業としてどのような実務対応が必要となるか、適用拡大の解説をします。

 

今回の適用拡大の概要

厚生労働省は今年11月にパートやアルバイトなどで働く短時間労働者への厚生年金の適用拡大をめぐって、現行の厚生年金加入の条件となっている企業規模の要件を「501人以上」から「51人以上」に引き下げる案などを与党に示しました。

 

これにより短時間労働者の老後の年金水準を充実させるとともに、年金の財政基盤を強化する狙いがあります。今後、厚生労働省は与党や関係団体との調整を本格化させて年末までに中小企業の支援策も含めた詳細を固め、来年の通常国会での法案提出をめざしています。

 

そして、厚生労働省は今年9月、将来の年金給付水準の見通しを示した将来の公的年金の財政見通し(財政検証)で、企業規模の要件を、「51人以上」に引き下げた場合には65万人が、「21人以上」の場合には、85万人が、撤廃した場合は125万人が、それぞれ対象となると試算しております。

 

さらに学生、雇用契約期間1年未満の者、非適用事業所の雇用者を除いて、現行の月収8万8千円以上の賃金条件を撤廃した場合は325万人が、月収5万8千円以上の収入のある全ての雇用者に適用拡大した場合は1,050万人が対象となるとした試算を公表しました。

 

このほか、法人事業所は全て加入義務がある一方、厚生年金の加入義務は従業員5人以上の個人事業所の場合、16業種に限定されておりますが、今回「士業」と呼ばれる弁護士や会計士、社会保険労務士の事務所を対象にする案を示しました。

 

 

これまでの適用拡大を振り返る

今回のように厚生年金保険被保険者の適用拡大の動きは近年で2回改正がありました。これまでパート労働者については平成28年、平成29年に大きな改正がされております。そこでまず厚生年金保険の加入対象となる労働者と、これまでの適用拡大の概要を振り返ってみたいと思います。

 

そもそも厚生年金に加入対象となる労働者とは?

必ず厚生年金保険に加入することになる方は、常時従業員を使用する会社に勤務している70歳未満の一定の人(※厚生年金保険の被保険者といいます)です。

 

被保険者となる方とは

臨時に使用される人や季節的業務に使用される人を除いて、就業規則や労働契約などに定められた一般社員の所定労働時間及び所定労働日数の3/4以上ある従業員です。また、一般社員の所定労働時間および所定労働日数が3/4未満であっても、下記の5要件を全て満たす方は、被保険者(短時間労働者)になります。なお、この場合の従業員は、正社員、契約社員、パートタイマー、アルバイトなどの名称を問わず、事業所に雇用される人すべてを含みます。

 

平成28年10月からの新たな適用対象

労働時間・労働日数が、一般社員の3/4未満で、以下の①~⑤全ての要件に該当する方

① 週の所定労働時間が 20 時間以上あること

② 雇用期間が 1年以上見込まれること

③ 賃金の月額が 8.8 万円以上であること(通勤手当は除かれます。)

④ 学生でないこと

⑤ 被保険者数が常時 501 人以上の企業(特定適用事業所)に勤めていること

 

平成29年4月からの新たな適用対象

被保険者数が常時 500 人以下の事業所において、上記①~⑤全ての要件に該当かつ、次のア又はイに該当する方

ア.労使合意に基づき申出をする法人・個人の事業所

イ.地方公共団体に属する事業所

 

上記が現行制度の加入要件となります、現行制度の事業規模要件は、中小の事業所への負担を考慮して、激変緩和の観点から段階的な拡大を進めていくために設定されたものです。そのため、本要件については、法律本則に規定された他の要件と異なり、改正法の附則に当分の間の経過措置として規定されていました。

 

 

今回の改正案を解説!

先に述べた通り、厚生労働省は、企業規模の要件を現在の「従業員501人以上」から「51人以上」「21人以上」「撤廃」に見直す試案を示しました。「51人以上」に引き下げた場合、新たに厚生年金に加入する人は65万人。小規模企業の一部が対象になる「21人以上」は85万人、「撤廃」なら125万人増加します。

 

厚生労働省の有識者会議では、就業先によって加入要件が異なることは労働者にとって差が生じるためか「企業規模要件について本来は撤廃すべきもの」との報告書がまとめられています。

 

しかしながら、保険料を折半する事業主の負担は「51人以上」なら1590億円、「21人以上」なら2160億円、「撤廃」なら3160億円増えるとされており、保険料負担による経営の圧迫も懸念されています(試算によると労働者1人当たり年約25万円)。また、労働者の意識が手取り収入を減らさないよう労働時間を加入要件未満に抑える方向に向かうことも企業は懸念しています。

 

短時間労働者の事業規模適用拡大についての意見として、外食産業を抱える日本フードサービス協会は「深刻な人手不足に陥る」と発表し、501人以上企業に対するアンケートにおける意見では「短時間労働者適用除外の同業他社へ労働者の流出が起きてしまう」といった人材の確保が困難な状況になり経営に直結する問題が起きてしまうのではないかという意見が多くあります。そのため有識者会議では「助成金等の中小の支援策と併せて検討する必要がある」との意見が出ています。

 

これらの声に配慮し、図1のように、最終的には事業規模要件を「従業員51人以上」に引き下げることとし、2022年10月に「101人以上」とした上で2024年10月に「51人以上」とする2段階方式を検討しています。

 

 

 

社会保険の加入は調査がある

法改正への議論と併せて、今後は社会保険未加入者への指導がより厳しいものになることが予想されます。指導の具体的なものとして以下のような方法があります。

 

・定時決定時調査(算定調査)

・総合調査

 

定時決定時調査とは

定時決定時調査(以下、算定調査)とは、7月に行う社会保険手続きである算定基礎届の提出と合わせて実施される4年に1回の調査です。調査対象となった会社には通知書が送られ、調査で必要となる書類の準備を行うこととなります。参考までに必要書類は、次のとおりです。

 

・算定基礎届

・厚生年金保険70歳以上被用者算定基礎届

・算定基礎届総括表

・算定基礎届総括表附表

・賃金台帳

・出勤簿

・源泉所得税領収書

・提出済の適用関係諸届(資格取得届、資格喪失届、月額変更届などの決定通知書)

・事業主印

 

調査の際に確認されるポイント

年金事務所が調査のときに特に確認する観点は次のとおりです。

社会保険の加入状況

1週の所定労働時間および1月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上の方について、社会保険の加入手続きが適正に行われているかどうか確認されます。正社員はもちろんですが、時給のパートやアルバイトについては賃金台帳と出勤簿から労働時間と労働日数を確認され、加入漏れがないか確認される場合があります。

 

標準報酬月額を算出するための報酬の範囲

賃金台帳の支給項目を確認され、報酬に含むべきものであるか確認されます。給与計算上で賞与を支払っている場合にその分の社会保険料が控除されているか、本来は報酬に含まれる性質の支給について随時改定の際に報酬に含まれているかなどがポイントとなります。

基本的に、年金事務所の判断としては賃金台帳に記載のある項目については祝い金や一時金を除いてほぼ報酬に該当するような判断をしているように思われます。

賃金台帳上で「その他手当」など内容が明確でない項目でなんでもかんでも支払っていると「この給与の内容はなんでしょうか」などと質問され報酬かどうか確認されることがあるかもしれません。

 

社会保険の資格取得日

資格取得日は、雇用契約の内容に従って決められます。たとえば、時給の方で1週の所定労働時間および1月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上の方がいれば、入社日(勤務開始日)が資格取得日となります。まれに、雇用契約の内容では社会保険に加入するとしながら、実際の入社月では最初は仕事に慣れるために社会保険に入らず翌月から加入するような方がいます。

社会保険の加入は、まず雇用契約の内容に沿いますので、この場合は入社日から加入となります。例外として、2ヶ月未満の雇用の方は社会保険に加入しなくてよいとされているものの、2ヶ月経過後に引き続き雇用するとなった場合には、やはり2か月前に遡って社会保険に加入となります。

また、複数の事業所にてフルタイムで働く役員の方について、2以上事業所勤務の届を指摘されることもあります。

 

総合調査とは

算定調査の内容に加えて、被扶養者の認定についても調査が行われます。必要な書類としては算定調査よりも広く次のとおりです。

 

・雇用契約書、労働者名簿

・源泉所得税領収証書、個人別所得税源泉徴収簿

・賃金台帳

・出勤簿

・資格取得届、算定基礎届、月額変更届、賞与支払届の決定通知書

・就業規則及び給与規定

 

対象となる会社には年金事務所より通知書が届き、調査は年金事務所の職員が会社に出向いて行われます。算定調査同様、指摘があった場合には、追加で保険料を納めることになりますが、算定調査よりも広範囲の書類を確認されますので、事務負担はより重くなるでしょう。

 

もし調査で指摘を受けたら…

調査で未加入が指摘された場合、最大で過去2年間をさかのぼって社会保険に加入することになる場合があります。その場合、それまで納められなかった保険料を本人負担分と会社負担分の不足分を納付することとなり、本人から追加で控除を行う必要もあります。

不足した保険料の算出は会社が行いますので、給与計算への反映も含めると事務負担は大きなものになります。

 

 

社会保険の加入を適正に行う企業の対応

会社で社会保険の加入を適正に行うポイントは3つあります。

 

入社時の雇用契約内容を決めるとき

パートやアルバイトの方の働き方をいくつかのパターンで分けておき、社会保険に加入する場合としない場合で明確に分けておく方法があります。その後の勤務でも、決められた雇用契約の内容に沿って勤務を行うよう、現場の上長や本人にも働きかけをしておき会社として例外パターンを少なくしておきます。社会保険の加入用件に沿って週30時間未満とそれ以上で雇用形態を明確に分けている会社も多いですが、昨今の採用難により既存の社員の柔軟な働き方を進めている会社もありますので注意が必要です。

 

給与計算時に労働時間と労働日数を確認するとき

毎月の給与計算の際に勤怠を締めるかと思いますが、そのときに時給者の直近3か月分の労働時間と日数を確認できる帳票で加入用件を満たすのか満たさないのか判断する方法があります。3ヶ月分を確認することで、現場で労働時間が意識されているか把握することも出来ますし、もしかするとご本人の勤務形態の変更の要望が隠れているかもしれませんので様子を伺うきっかけになります。

 

雇用契約の更新のとき

雇用契約の更新は、変更がなければ従前の内容で更新されると思いますが、契約内容と勤務実態に乖離がある場合には、シフトの変更や勤務時間、日数の変更を行い、社会保険の加入を適正に行うことができます。

 

 

今後の適用拡大の動向に注意!

今後の議論の方向性としては、健康保険は厚生年金との制度上の差異にかかる指摘がある一方、働き方に中立で公平な制度とする観点や実務上の課題を踏まえ、一体的適用を維持する必要性を示すことでしょう。

 

それを前提として、国民年金の第3号被保険者制度は働き方やライフスタイルの選択を阻害しない制度とするため、まずは更なる適用拡大を通じてある程度働く短時間労働者については被用者保険に加入する形を目指しつつ、制度の在り方について引き続き検討されていきます。

 

その中で、多くのパート・アルバイトを抱えている業種・業態は中小企業かと思います。適用が拡大することによって恩恵を受ける人がいる一方で、最低賃金の上昇や保険料の負担、昨今の働き方改革による働き方の多様性が企業の経営にも少なからず影響があるものと思われます。

 

その影響を大きくしないためにも、まずは自社の加入状況がどうなっているのか、既存の従業員において社会保険に加入すべき人が正しく加入できているかどうかを確認しておきましょう。これを機に社会保険関係のお手続きのアウトソースをお考えの企業様は人事部サポートSRまでお気軽にお問い合わせください。

 

 

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