労災保険の特別加入制度とは。対象者から加入方法、年度更新まで知りたいときに読む記事
労災保険は、日本国内で労働者として事業主に雇用され賃金を受けている方を対象としています。
事業主は、原則として労働者を一人でも雇っていれば労災保険に加入し保険料を納付する必要があります。
労働者に当たらなければ労災保険の加入対象者となりませんが、労働者以外の者も、ある一定の要件を満たせば労災保険に加入することができます。
今回はそんな労災保険の特別加入制度の概要についてご説明いたします。
目次
1. 労災保険の特別加入制度とは
労災保険は正式名称を「労働者災害補償保険」といいます。
労災保険の目的は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して必要な保険給付を行い、
労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、
もつて労働者の福祉の増進に寄与することです。(労働者災害補償保険法第1条)
そのため、労災保険はその適用対象を労働者に限定していることが特徴的です。
①労災保険の対象者
労災保険の対象となる労働者の定義は、労働基準法と同一です。
労働基準法において「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」を指します。(労働基準法第9条)
事業所と使用従属関係にない者、事業所から賃金が支払われていない者などは「労働者」には当たりません。
「労働者」ではない者の具体例としては、事業主・自営業主・家族従業者などが挙げられます。
「労働者」以外の者が業務中に負傷した場合に、労災保険給付を受けることはできません。
②特別加入制度
しかし、「労働者」以外の者のうち、 業務の実態や災害の発生状況からみて、労働者に準じて保護することがふさわしいと見なされる人は、一定の要件の下に労災保険に加入することができます。
これを労災保険の特別加入制度といいます。
特別加入制度を利用する要件としては、大きく2点ございます。
それは、厚生労働省の挙げる特別加入制度の利用対象者であることと、利用にあたる必要な手続きをすることです。
これら要件を満たしている「労働者」以外の者は、本来は受けることのできない業務中の事故や怪我についての労災補償を受けることが可能となります。
具体的な要件の内容について以下にご説明いたします。
2. 特別加入対象者は大別して4種
労災保険の特別加入制度を利用できる方の範囲は、中小事業主等・ 一人親方等・特定作業従事者・海外派遣者の4種に大別されます。
①中小事業主等
労働者数の少ない企業の場合、事業主は労働者とともに労働者と同様の業務に従事する場合が多いと考えられます。
そのため、たとえ立場は事業主であっても業務の実態は労働者と変わらないことから、労働者に準じた労災保険による保護が必要と考えられるため、特別加入制度を利用することが可能となります。
では、「中小事業主」であれば、どんな企業であっても労災保険の特別加入制度を利用できるのでしょうか。
労働基準法において「中小事業主」とは、以下のように定義されております。(第138条)
・その資本金の額又は出資の総額が三億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については五千万円、卸売業を主たる事業とする事業主については一億円)以下である事業主
および
・その常時使用する労働者の数が三百人(小売業を主たる事業とする事業主については五十人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については百人)以下である事業主
資本金の額と労働者数の両要件を満たすと労働基準法上の「中小企業主」に該当し、様々な例外措置を受けることが可能となります。
一方、具体的に労災保険に特別加入できる「中小事業主等」に該当するのは、以下の(1)(2)に当たる者を指します。
(1)表に定める数の労働者を常時使用する事業主(事業主が法人その他の団体であるときは、その代表者)
(2)労働者以外で①の事業主の事業に従事する人(事業主の家族従事者や、中小事業主が法人その他の団体である場合の代表者以外の役員など)
労働基準法で定義されている「中小事業主」よりも、特別加入制度を利用できる「中小事業主等」の方が該当する範囲が狭いことがわかります。
ですので、すべての「中小事業主」が特別加入制度を利用できるわけではございませんので、その点注意が必要です。
また、中小事業主等の特別加入の特徴として、原則として事業単位で労災に加入する必要がある点が挙げられます。
これを包括加入といいます。
事業単位での包括加入とは、事業主本人のほか家族従事者など労働者以外で業務に従事している人全員を包括して特別加入の申請を行うということです。
ただし、病気療養中、高齢その他の事情により実態として事業に従事していない事業主は、例外として包括加入の対象から除くことができます。
中小事業主等が初めて特別加入するためには、以下の2要件を満たしたうえで、所轄の都道府県労働局長に特別加入申請書を提出し、承認を受けることが必要です。
(1)雇用する労働者について保険関係が成立していること
(2)労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していること
労働保険事務組合については、労働基準監督署や社会保険労務士にお問い合せください。
②一人親方等
建設の事業などの自営業者(いわゆる一人親方)などは、労働者を雇わずに自分自身で業務に従事する場合が多いと考えられます。
中小事業主等と同様、業務の実態は労働者と変わらないことから、一定の事業を行うことを常態とする一人親方その他の自営業者およびその事業に従事する人は、一定の手続きを経ることにより特別加入制度を利用することが可能となります。
具体的には労働者を使用しないで以下の事業を行うことを常態とする者を指します。
(1)自動車を使用して行う旅客または貨物の運送の事業
(個人タクシー業者や個人貨物運送業者など)
(2)土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、原状回復、修理、変更、破壊、もしくは、解体またはその準備の事業
(大工、左官、とび職人など)
(3)漁船による水産動植物の採捕の事業 *(7)に該当する事業を除く
(4)林業の事業
(5)衣料品の配置販売の事業
(6)再生利用の目的となる廃棄物などの収集、運搬、選別、解体などの事業
(7)船員法第1条に規定する船員が行う事業
特別加入制度を利用できる「一人親方等」とは、原則として労働者を使用しないことが加入要件として挙げられますが、労働者を使用する場合であっても、労働者を使用する日の合計が1年間に100日に満たないときには、一人親方等として特別加入することができます。
一人親方等が初めて特別加入する際の手続きは、都道府県労働局長 の承認を受けた特別加入団体が行うことになっています。
特別加入制度を利用する場合には、既存の団体に加入をするか、自ら団体を設立する必要があります。
特別加入団体にも規模の大きいものから、社会保険労務士が窓口になっているものまで数多くございますが、それぞれ以下のような要件を満たしていなければなりません。
(1)一人親方等の相当数を構成員とする単一団体であること。
(2)その団体が法人であるか否かに関わらず、構成員の範囲、構成員である地位の得喪の手続きなどが明確であること。その他団体の組織、運営方法などが整備されていること。
(3)その団体の定款などに規定された事業内容からみて労働保険事務の処理が可能であること。
(4)その団体の事務体制、財務内容などからみて労働保険事務を確実に処理する能力があると認められること
(5)その団体の地区が、団体の主たる事務所の所在地を中心として労働保険徴収法施行規則第6条第2項第4号に定める区域に相当する区域を超えないものであること。
一人親方等が特別加入制度を利用するためには、特別加入団体に加入した上で、所轄の都道府県労働局長に特別加入申請書を提出し、承認を受けることが必要です。
③特定作業事業者
具体的に特定作業事業者とは、以下のような者を指します。
(1)特定農作業従事者
(2)指定農業機械作業従事者
(3)国または地方公共団体が実施する訓練従事者
(4)家内労働者およびその補助者
(5)労働組合等の常勤役員
(6)介護作業従事者および家事支援従事者
平成30年4月、労働者災害補償保険法施行規則等の一部が改正され、家事支援従事者が特別加入の対象範囲に追加されました。
家事支援従事者とは、家政婦紹介所の紹介等により個人家庭に雇用され、家事、育児等の作業に従事する者を指します。
一方、平成13年より特別加入制度の加入対象となっていた介護作業従事者とは、「介護労働者の雇用管理の改善等に関する法律」第2条第1項に規定する介護関係業務に関する作業に従事する者を指します。
具体的な介護作業従事者の従事する作業としては、入浴、排せつ、食事などの介護その他の日常生活上の世話、機能訓練または看護に関するものが挙げられます。
家事支援従事者は介護作業従事者と同様の就労形態と言え、家事支援従事者のみ特別加入の対象としない合理性は低いという点、また、女性の社会進出を促進する社会において、家事、育児の支援サービスの需要は増大するものと考えられる点から、家事支援従事者も特別加入制度の加入対象となりました。
現在は、実際に行う作業が「介護作業」または「家事支援作業」のどちらかだけであっても、特別加入する際の整理上は、「介護作業従事者および家事支援従事者」として加入することとなり、そのいずれの作業にも従事し得るものとして取り扱われることとなります。
特定作業従事者が初めて特別加入する際の手続きは、一人親方等と同様、都道府県労働局長の承認を受けた特別加入団体が行うことになっています。
特定作業事業者の団体(特別加入団体)を事業主、特定作業従事者を労働者をみなして労災保険の適用を行います。
所轄の都道府県労働局長に特別加入申請書を提出し、承認を受けることが必要ですが、その際の申請書は「一人親方等」と記載されたものをご利用ください。
*理由は後ほどご説明いたします
④海外派遣者
法律の一般原則として、その適用範囲は日本国内に限定されます。(属地主義)
労災保険法の適用についても同様ですので、海外の事業場に所属し、その事業場の指揮命令に従って業務を行う海外派遣者に関しては、日本の労災保険法の適用はございません。
しかし、諸外国の中には、労災補償制度が整備されていなかったり、仮に労災補償制度があったとしても日本国内で労災を被った場合には当然受けられるような保険給付が受けられないことがあります。
そこで、海外での労災に対する補償対策として特別加入制度が設けられました。
海外派遣者として特別加入をすることができるのは、以下のいずれかに該当する場合です。
(1)日本国内の事業主から、海外で行われる事業に労働者として派遣される人
(2)日本国内の事業主から、海外にある中小規模の事業(下記表)に事業主等(労働者ではない立場)として派遣される人
(3)独立行政法人国際協力機構など開発途上地域に対する技術協力の実施の事業(有期事業を除く)を行う団体から派遣されて、開発途上地域で行われている事業に従事する人
特別加入が可能が海外派遣者であるかに関して、派遣の形態(転勤、移籍出向など)や派遣先での職種、あるいは派遣先事業場の形態、組織などについては問われません。
しかし、現地採用や単なる留学を目的とした派遣については海外派遣者として特別加入制度を利用することはできません。
また、特別加入制度を利用できる「海外派遣者」は「海外出張」ではなく、「海外派遣」されていることが必要になるという点に注意が必要です。
「海外出張者」と「海外派遣者」のどちらかに当たるかは、勤務の実態によって総合的に判断されることになりますが、一般的に以下のように例示されます。
「海外出張者」とは、単に労働の提供の場が海外にあるにすぎず、国内の事業場に所属し、その事業場の使用者の指揮に従って勤務する労働者です。
所属する国内の事業場の労災保険により給付を受けられます。
一方、「海外派遣者」とは、海外の事業場に所属して、その事業場の使用者の指揮に従って勤務する労働者、またはその事業場の使用者(事業主およびその他労働者以外の方)です。
「海外派遣」の場合は、海外派遣者に関して特別加入の手続きを行っていなければ、労災保険による給付を受けられません。
海外派遣者が初めて特別加入するにあたっては、前提として派遣元の団体または事業主が、日本国内において実施している事業(有期事業を除く)について、労災保険の保険関係が成立していることが必要です。
*派遣先の事業については、有期事業も含まれます。
特別加入の手続きは、派遣先の団体または事業主が、その事業から派遣する特別加入予定者をまとめて行うことになっています。
海外派遣者用の特別加入申請書を所轄の都道府県労働局長に提出し、承認を受けることが必要です。
3. 特別加入時の健康診断
一定の業務に一定期間従事したことがある場合は、特別加入の申請を行う際に健康診断を受ける必要があります。
図に当てはまる場合は、以下のような手続きを行う必要がございます。
(1)「特別加入時健康診断申出書」を特別加入団体等を通じて監督署長に提出
(2)申出書の業務歴から判断して加入時健康診断が必要であると認められる場合、監督署長は「特別加入健康診断指示書」および「特別加入時健康診断実施依頼書」を交付。
(3)指示書に記載された期間内に、あらかじめ労働局長が委託している診断実施機関の中から選んで加入時健康診断を受診。依頼書は診断実施機関に提出。
(4)診断実施機関が作成した「健康診断証明書(特別加入用)」を申請書または変更届に添付し、監督署長に提出。
加入時の健康診断の結果によっては特別加入が制限、あるいは特別加入者としての保険給付を受けられない場合がございます。
例を挙げるならば、特別加入予定者が既に疾病にかかっていて、療養に専念しなければならないと認められる場合には、特別加入が認められないということもございます。
虚偽申告も特別加入の申請が承認されない、または、保険給付が受けられない事態に発展することがございますので、ご注意くださいませ。
4. 特別加入者の年度更新
労災保険の保険料は年度更新によってその納付を行いますが、特別加入者が在籍している場合には、その申告の際に注意が必要です。
①年度更新の方法
年度更新とは、1年分の労災保険料と雇用保険料(あわせて労働保険料といいます)を申告・納付する手続きのことです。
「労働保険概算・確定保険料/石綿健康被害救済法一般拠出金申告書」を作成し、毎年原則6月1日~7月10日の間に手続を行うことになります。
労働保険料は原則は個人単位ではなく会社単位でその計算を行いますが、特別加入者に関してはほかの労働者とは別に計算と申告、納付が必要になります。
*年度更新は労働保険料の申告手続きですので、特別加入者の増減に関する手続きは別途行ってください。
②第2種および第3種特別加入者の年度更新
特別加入の利用対象者は4種に大別されると先述しましたが、制度上は一人親方等と特定作業従事者をまとめて以下のように分類されます。
(1)第1種特別加入 : 中小事業主
(2)第2種特別加入 : 一人親方等、特定作業従事者
(3)第3種特別加入 : 海外派遣者
一人親方等、特定作業従事者はどちらも第2種特別加入者に当たりますので、加入の際の申告書も同一のものを使用することになります。
そして年度更新についてですが、第2種が在籍している会社、または第3種特別加入者が在籍している会社は、特別加入者のみの申告書を別途作成しなければなりません。
また、申告書のほかに以下の書類の提出が必要になります。
(2)第2種特別加入
・保険料申告内訳
・確定保険料算出内訳書 :特別加入継続者
・確定保険料算出内訳(別紙) :年度途中加入及び脱退者
・一人親方継続者名簿(家内労働者を除く)
家内労働者に関しては、下記書類を毎年4月20日までに提出しなければなりません。
・特別加入申請書及び同別紙
・念書等
(3)第3種特別加入
・第3種特別加入保険料申告内訳
・第3種特別加入保険料申告内訳名簿
・特別加入保険料算定基礎額特例計算対象者内訳
これらの書類は銀行、郵便局及び社会保険・労働保険徴収事務センターでの受付は行っておりませんので、所轄の労働基準監督署または東京労働局へご提出下さい。
③給付基礎日額の変更
特別加入者の給付基礎日額は年度ごとに決定されます。
給付基礎日額を変更する場合は、事前に「給付基礎日額変更申請書」を提出する必要がございます。
・事前申請 (3月2日~3月31日)
事前に監督署長を経由して労働局長あて提出することによって、翌年度より変更された給付基礎日額が適用されることとなります。
例)2018年3月31日に申請書を提出 ⇒ 2018年4月1日から変更後の給付基礎日額を適用
また、年度更新期間中にも、給付基礎日額の変更が可能です。
・年度更新時期(6月1日~7月10日)
年度更新時期に申請書を提出すると、当年度の4月から遡って給付基礎日額が変更となります。
例)2018年6月1日に申請書を提出 ⇒ 2018年4月1日から変更後の給付基礎日額を適用
ただし、年度更新時期の変更が認められるためには、申請前に労災が発生していないことが前提となります。
例えば当年4月1日から申告書提出日までの間に労災が発生していた場合、当年度の給付基礎日額を変更することができません。
つまり、申請前に発生した災害に対する給付は、従前の給付基礎日額が適用となります。
給付基礎日額を変更する場合は、可能であれば事前申請を利用することをお勧めいたします。
以上、労働者と特別加入者がいる会社で年度更新を行う場合は、それぞれ申告書が必要であるという点、
特別加入者に関しては、対象者の増減、給付基礎日額の変更、そして労働保険料についてそれぞれ申告が必要になるという点、ご注意くださいませ。
5. おわりに
いかがでしょうか。
労災保険の特別加入や主な手続きについてご理解いただけたでしょうか。
特別加入について更に詳しく知りたい、申告書の書き方がわからない等のお悩みがございましたら、下記問い合わせフォームまたはお電話にてお気軽にお問合せ下さいませ。
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