え!もう辞めちゃうの!?同月得喪の社会保険料を支払うとき、返還されるとき
新年度が始まり、新卒入社も中途入社も問わず、新入社員が入った会社も多いかと存じます。
新入社員本人はもちろん、新入社員を受け入れる会社も期待感でいっぱいですよね。
しかし、残念なことに入社後すぐに辞めてしまう従業員も少なからずいるのが現実。
そのような従業員に対して、会社は迅速に入社手続きと退職手続きの両方を進めなければなりません。
今回はあまり起きてほしくない、そんな「同月得喪」についてご説明いたします。
目次
1. 社会保険の資格取得日と資格喪失日が「同月」にある
社会保険の取得日と喪失日が同月にあることを同月得喪と言います。
社会保険料の徴収などは1か月単位になりますから、被保険者資格を取得して1か月に満たず喪失してしまうというのは、制度としては例外的な状況であると考えていただいていいでしょう。
例外を考えるにはまず原則を押さえなければなりません。
まずは以下に社会保険の加入、取得、喪失について記載いたします。
①社会保険の加入義務
日本では1958年に国民健康保険法が制定され、すべての国民が何らかの公的医療保険に加入し、お互いの医療費を支えあう「国民皆保険制度」が確立されました。
その中で健康保険および厚生年金保険は、適用事業所に常時使用される人であれば原則全員に加入義務がございます。
適用事業所とは健康保険および厚生年金保険が適用となる事業所のことです。
強制適用事業所と任意適用事業所の2つに分かれます。
強制適用事業所 : 株式会社などの法人の事業所または従業員が常時5人以上いる個人の事業所(農林水産業など一部事業を除く)
任意適用事業所 : 強制適用事業所以外で従業員の半数以上が適用事業所となることに同意し、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けている事業所
適用事業所の事業主は、被保険者資格取得の事実発生から5日以内に被保険者資格取得届を日本年金機構に提出しなければなりません。
*協会けんぽ以外の健康保険組合等に加入している事業所は、別途、健康保険の被保険者資格取得届の提出が必要となります。
ここでいう事実発生とは、例えば入社者であれば入社日を、雇用形態変更による加入者であれば変更日を指します。
健康保険法の条文を確認いたしましょう。
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健康保険法 第35条
被保険者(任意継続被保険者を除く。以下この条から第三十八条までにおいて同じ。)は、適用事業所に使用されるに至った日若しくはその使用される事業所が適用事業所となった日又は第三条第一項ただし書の規定に該当しなくなった日から、被保険者の資格を取得する。
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条文に記載されている文言を分解すると、任意継続被保険者を除く被保険者は、以下3通りの「事実発生」の日が想定されます。
(1)適用事業者に使用されるに至った日 = 従業員の入社日
(2)使用される事業所が適用事業所となった日 = 事業所が健康保険制度の強制適用事業所、 もしくは任意適用事業所となった日
(3)第3条1項但し書きの規定に該当しなくなった日 = 健康保険の被保険者から適用除外される事由に該当しなくなった日
例えば(1)について、4/1入社者であれば事実発生日は4/1となり、それより5日以内に被保険者資格取得届の提出をしなければなりません。
例えば(3)について、3/31まで社会保険の加入対象者でなかったパートタイマーが、4/1よりフルタイムに雇用形態が変更する、というような場合の事実発生日も4/1です。
事実発生日が資格取得日となり、どちらの例でも4/1より健康保険および厚生年金保険の被保険者となります。
②社会保険被保険者資格の喪失
社会保険の被保険者資格は一度取得すればそれきりというものではなく、喪失するということもございます。
適用事業所の事業主は、被保険者の資格喪失の事実発生から5日以内に被保険者資格喪失届を日本年金機構に提出しなければなりません。
どのような場合に被保険者資格を喪失するのか、条文を確認いたしましょう。
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健康保険法 第36条
被保険者は、次の各号のいずれかに該当するに至った日の翌日(その事実があった日に更に前条に該当するに至ったときは、その日)から、被保険者の資格を喪失する。
一 死亡したとき。
二 その事業所に使用されなくなったとき。
三 第三条第一項ただし書の規定に該当するに至ったとき。
四 第三十三条第一項の認可があったとき。
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条文の第4号に記載のある「第33条第1項の認可」とは、任意適用事業所が厚生労働大臣の認可を受けて、当該事業所を適用事業所でなくすることを指しております。
当該条文で最も重要なのは、条文の列挙事項に該当するに至った日の翌日から被保険者の資格を喪失するということ。
例えば4/30に退職した被保険者は、翌日の5/1に被保険者の資格を喪失します。
4/1に入社して4/30に退職した場合、「同月入退職」ではあっても、原則的には「同月得喪」ではないということになります。
つまり、同月得喪の問題が発生するのは、入社月の月末以外に退職する時です。
ではこの同月得喪、社会保険手続きにおいてどのような対応が必要となるでしょうか。
2. 社会保険料は支払うのか
先述した通り、社会保険料は1か月単位で徴収します。
これは、社会保険料は日割りされないという意味です。
例えば1か月のうち7日間しか被保険者期間がなかったとしても、社会保険手続き上は1ヵ月分の社会保険料を徴収するかしないかの問題となります。
また、社会保険料は、資格を取得した日(入社日) の属する月から、資格を喪失した日(退職日の翌日) の属する月の前月分まで徴収されるのが原則です。
例えば4/1に入社した被保険者が翌月5/15に退職したとします。
この場合ですと、4月分の保険料のみが徴収され、5月分は徴収されないということになるのです。
では、同月得喪ではどうでしょうか。
勤務している日数が少なければもらえる給料も少ないでしょう。
会社としても、数日しか働かなかった従業員の1か月分の社会保険料を支払うことに抵抗があるかもしれません。
同月得喪で1か月分の社会保険料を徴収するなら、1ヵ月以上働いた従業員と数日しか働いていない従業員の徴収する保険料が同額ということになり、そこに違和感を覚えるということもあるかもしれません。
同月得喪のようなケースなら社会保険料は支払わなくても良いのではないか… とつい考えてしまうものと思います。
しかし、社会保険料に関しては、原則は1日でも被保険者であれば支払いの義務が発生します。
つまり4/1に入社した従業員が4/2に退職となったような場合でも、当該従業員は1か月分の社会保険料を支払わなければならないのです。
特に会社が取得手続きをする前に従業員が退職してしまったような場合に、取得と喪失の手続きを同時進行させるということに、戸惑う方もいるかもしれません。
また、社会保険料を差し引いたことで、当該従業員の手取りがマイナスになってしまうこともあるかもしれません。
しかし、そのような場合でも社会保険の取得手続きを行い、1か月分の社会保険料を徴収するのが原則的な対応です。
労使間のトラブルを防止するためには、入社時に同月得喪においても保険料は1月分徴収の旨を、書面にて伝えておくことが望ましいかと存じます。
なお、社会保険料は従業員と被保険者が半分ずつ負担しますので、もちろん会社にも1か月分の社会保険料の支払い義務が発生しますので、ご認識ください。
3. 同月得喪、その後の手続きとは
先述の通り、日本は国民皆保険制度を採用しております。
健康保険を喪失したのであれば、他の事業所の加入している社会保険や、国民健康保険など、他の医療保険に加入しなければなりません。
月の前半のみ健康保険に加入していたが、資格喪失後に大きな怪我をしてしまったというような場合に、そのとき何の医療制度にも加入していないというのでは保障が受けられません。
ですので、 資格喪失から間をおかずに他の医療保険に加入しなければならないのです。
なお、加入した医療保険で徴収される保険料はもちろん1か月単位です。
ということは、同月得喪の対象者は1か月で2か月分の保険料を支払わなくてはならないということになります。
厚生年金保険の保険料の徴収、そして返還
ただし、厚生年金保険については例外があり、次の①②に該当する場合は厚生年金保険の保険料は徴収されません。
①再就職により、同月中に厚生年金保険に再加入した場合
②同月中に国民年金(第2号被保険者を除く)に加入した場合
従来の同月得喪では、厚生年金保険喪失後に同月内に国民年金の被保険者資格を取得した場合、厚生年金保険料・国民年金保険料がそれぞれ徴収されていました。
しかし、平成27年10月1日以降において、②のケースが生じた場合には国民年金保険料のみを納付することとなり、厚生年金保険料は納付する必要がなくなりました。
よって、一度徴収した厚生年金保険料はのちに返還されることになります。
①の場合であっても、退職した従業員が同月内に転職したかどうかを、事前に把握することは難しいです。
同月得喪の従業員より、既に転職先が決まっており同月内に働き始めると聞いていたが、何らかの事情でやはり転職がなくなったという様な場合を想定します。
このような場合に、従業員の事前の申し出をもとに厚生年金保険料は非徴収という対応をしてしまいますと、当該従業員の厚生年金保険料を立て替えたまま、本人に徴収できないという結果になってしまう危険性があります。
ですので、事前に非徴収という対応をとるのではなく、一度厚生年金保険料を徴収したうえで、返還対象者に還付するというやり方が望ましいでしょう。
還付対象者がいる場合、該当する被保険者が在籍していた事業所には年金事務所から通知が届きます。
その後、事業所が年金事務所に還付請求書を提出することによって還付処理が行われます。
会社負担分と従業員負担分の両方の保険料が会社へ返金されますので、退職した従業員へは会社から返金しなければなりません。
こちらも同月得喪の従業員には事前に伝えておくことが望ましいでしょう。
4. おわりに
いかがでしたか。
あまり頻繁には出てほしくない、同月得喪についてご確認いただけたでしょうか。
事前の確認や従業員への連絡を怠ってしまうと、場合によってはトラブルの原因ともなりかねません。
これを機に、ぜひ労使間でご共有いただければ幸いです。
Ari
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