いわゆる問題社員に辞めてもらうことはできますか?

何度注意しても同じミスを繰り返したり、教育や指導を行っても言うことを聞かない、いわゆる問題社員に対し、さすがに辞めてもらおうと思っています。「辞めてくれ」と言うのは問題がありますか。

回答

結論から申し上げますと、「辞めてくれ」とストレートに口頭で伝えるのは、法的に極めてリスクが高く、絶対に避けるべきです。
お気持ちは分かりますが、その一言がきっかけで「不当解雇」や「退職強要(パワハラ)」として訴えられる可能性があります。

1. 「解雇」と言ったとみなされる(不当解雇リスク)
「辞めてくれ」という言葉は、法的に「会社側からの解雇通告」と解釈される可能性が高いです。日本の法律では「能力不足」や「態度不良」だけで解雇を正当化するのは非常に困難です。
労働基準法上は、解雇手続として「30日以上前の予告」もしくは「解雇予告手当の支払い」を求めています。しかしながら、もし相手が弁護士を立てて「不当解雇だ」と主張してきた場合、会社側が敗訴し「解雇無効」となれば、雇用契約は存続することとなりますので、最終的に雇用契約に基づく「解決までの期間の給与支払い(例えば、数百万)」という結果になりかねません。
注意すべきは、労働基準法上の「解雇手続」と、労働契約法上の「解雇の有効性」の両面を考えなければならないということです。

2. 「退職強要」になる(損害賠償リスク)
解雇ではなく「退職のお願い」のつもりだったとしても、強い言葉で「辞めてくれ」と言ったり、何度も執拗に迫ったりすると、民法上の不法行為である「退職強要」になります。これは慰謝料請求の対象になりますし、録音されていた場合、会社側が圧倒的に不利になります。

3. 「パワハラ」になる
「言うことを聞かない」「ミスが多い」という事実があっても、相手の人格を否定するような退職の迫り方はパワーハラスメントに該当します。特に「お前は必要ない」「辞めてくれ」といった言葉は、指導の範囲を超えた攻撃とみなされます。

それでは、どうすれば良いのでしょうか?
法的リスクを回避して辞めてもらう方法は、「解雇(命令)」ではなく「退職勧奨(合意による退職)」の形をとることです。

「辞めろ」と命令するのではなく、「会社に居続けることが、あなたにとっても幸せなことではないのでは?」という気づきを与えることで、本人が「じゃあ辞めます」と判断できるようにしてあげるのが最良です。

NGな伝え方(命令・感情)
×「もう君には仕事を頼めないから、辞めてくれ」
×「何度言ってもダメだから、来月末でクビだ」
×「明日から来なくていい」

OKな伝え方(事実の提示・提案)
○「あなたの今の評価は『D』であり、給与を下げる規定に該当する。このまま当社にいても、あなたのキャリアにとってプラスにならないと思う」
○「業務改善を求めてきたが、残念ながら結果が出ていない。別の環境で力を発揮する道(転職)を真剣に考えてみてはどうだろうか」
○「会社としてはこれ以上、あなたをフォローしきれない段階に来ている。今後の身の振り方について話し合いたい」

「言うことを聞かない」社員への対応
ご質問に「言うことを聞かない」とありますが、これは単なる能力不足よりも会社側に対応すべきことがあります。それは「業務命令違反」としての記録です。

業務命令を出す:「〇〇をいつまでにやりなさい」「このやり方は禁止です」と明確に指示する。
違反を記録する: 言うことを聞かなかった事実を日時とともに記録する。
報告書(顛末書)の提出を求める:上記事実に至った理由や今後の取組等を本人から提出させる。
注意指導書を渡す:「業務命令違反」として書面で厳重注意する。

これ(証拠:客観的事実)を積み重ねると、退職勧奨の際に「あなたは何度も業務命令に違反している。これ以上続くなら、懲戒処分も検討せざるを得ない」という形で自主的な退職合意に繋がる面談がし易くなります。

労働契約の終了の段階は、重要な場面となりますので、慎重な対応が必要です。常日頃の労務管理やコミュニケーションを重視し、トラブルリスクを予防することで、良好な雇用環境を維持しましょう。
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