新型コロナウイルスの影響で加速する業務改善!今だからこそ振り返るデジタル・トランスフォーメーション(DX)とは?
2020年4月1日以降、雇用保険や労働保険など一部の申請を電子申請で行うことが義務付けられました。デジタル・トランスフォーメーションの一環でもある文書の電子化は、「行政手続きコスト削減のための基本計画」に基づいています。
デジタル・トランスフォーメーションとは、『これまでの、文書や手続きの単なる電子化から脱却。IT・デジタルの徹底活用で、手続きを圧倒的に簡単・便利にし国民と行政、双方の生産性を抜本的に向上します。また、データを活用し、よりニーズに最適化した政策を実現。仕事のやり方も、政策のあり方も、変革していきます。』と定義付けられています。
2018年に発表されたこの取り組みから約1年半が経ちました。その間に多くの企業がデジタル・トランスフォーメーションを推進してきたのではないでしょうか。
また、昨今は新型コロナウイルスの感染拡大で、テレワークを実施する企業が増えてきました。このテレワークを行うための業務改善、データ化への取り組みはデジタル・トランスフォーメーションを加速させるものへと繋がります。
今年は、冒頭で述べた電子申請の義務化も開始されたため、改めてデジタル・トランスフォーメーションに企業が取り組む理由を振り返ってみたいと思います。
【背景】
デジタル・トランスフォーメーションとは、2004年にスウェーデンのウメオ大学、エリック・ストルターマン教授によって提唱された「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念です。このデジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation)は、しばしば「DX」と略されます。(英語では「Trans」を「X」と訳すことが多いため)
2004年と比べると、徐々にITによって身の回りの生活が変化してきました。具体的な例として、紙からデータへの移り変わり、アナログデータからデジタルデータへの変換といったデジタル化を思い浮かべる人も多いかと思います。また、インターネットが浸透すると共に進んだシステムの開発やパソコン技術の進化はIT化の顕著な例として挙げられます。
しかし、これらはあくまでもデジタル化(デジタライゼーション)であり、デジタル・トランスフォーメーション1段階目のフェーズとして捉えられています。
参考:『【図解】コレ一枚でわかるデジタル・トランスフォーメーションと3つのフェーズ』
によると、デジタル・トランスフォーメーションはそこに至るまでの段階を3つのフェーズに区分しています。
第1フェーズ:IT利用による業務プロセスの強化
従来は業務の効率や品質を高め、それを維持するために、仕組みや手順に合わせて業務プロセスの標準化が行われてきました。しかし人間がそこで働く以上、完全な業務プロセスの順守は難しくなります。そこで情報システムを用いて業務の効率や品質を確実なものにしようとしました。言い換えると、紙の伝票の受け渡しや伝言で成り立っていた仕事の流れを情報システムに置き換える段階と言えます。
第2フェーズ:ITによる業務の置き換え
このフェーズでは、第1のフェーズを踏襲しつつITに仕事を代替させて自動化する段階です。自動化によってヒューマンエラーを無くし、効率や品質を高めることが出来ます。
第3フェーズ:業務がITへ、ITが業務へとシームレスに変換される状態
IoT(Internet of Things)あるいはIoE(Internet of Everything)の仕組みから生み出されたデータをAIの機械学習を用いて解釈する段階です。
ITと業務の現場が一体となって、改善活動を高速で繰り返しながら、常に最適な状態を維持し、業務を遂行する仕組みができあがることになります。こうして「業務がITへ、ITが業務へとシームレスに変換される状態」が実現します。
デジタル・トランスフォーメーションとは、この第3フェーズの状態を言います。
IoTとIoEとは…
IoTは、モノのインターネットという意味です。今までインターネットに接続されていなかったものを接続することで、離れた場所からでも操作やモノの状態を知ることが出来ます。
IoEは、すべてのインターネットという意味で、IoTがさらに発展した概念です。モノだけではなくすべてがインターネットで繋がることによって、より良い社会環境を構築することを目指します。
このことから、デジタル化や情報のシステム化は第1フェーズに区分され、自動化によって正確かつ効率的な業務を進めることが出来るRPAの活用は第2フェーズに位置付けられることが分かります。
以上のことから、デジタル・トランスフォーメーションは単なる業務改善などの技術的なことではなく、デジタル技術を利用した仕組み、働き方を意味していると解することが出来るのではないでしょうか。
また、昨今は少子高齢化などの問題があるため、仕組みや働き方を変えて生産性を上げることが重要視されています。デジタル・トランスフォーメーションを推進することで新しい需要の創出に加えて、これらの問題も一部解消されると予想されています。
しかし経済産業省が発表したDXレポートでは、推進以外に、このままデジタル・トランスフォーメーションが実現できない将来についても言及をしていました。それが、「2025年の崖」という言葉でレポート中に度々登場しています。
【2025年の崖とは】
「2025年の崖」は、2018年に経済産業省が発表した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」というレポートで指摘されている問題点です。
問題点①レガシーシステム
日本国内の企業において、ITシステムの技術面の老朽化、システムの肥大化や複雑化、ブラックボックス化といった問題が起こっています。これらがいわゆる「レガシーシステム」と呼ばれている問題です。また、レガシーシステムは、大規模なシステム開発を行ってきた人材の定年退職の時期である2007年が過ぎて、人材に属していたノウハウが失われたことを理由にブラックボックス化していることが問題点であるとも言われます。レガシーシステムはデジタル・トランスフォーメーションの足かせとなっており、その結果として経営や事業戦略上の制約、高コスト構造の原因となっています。
ITの利用に関する調査及び研究、情報の収集や提供などを行っているJUAS(一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会)のアンケート調査によると、約8割の企業が「レガシーシステム」 を抱えており、約7割が「レガシーシステム」が自社のデジタル化の足かせになっていると回答していました。
レポートでは、2025年に21年以上稼働しているレガシーシステムがシステム全体の6割を占めると予測されています。また、現在ではほとんど使用されなくなったプログラミング言語をそのまま利用していることもあるため、新しい技術に適応できないといった問題があります。
これらの問題は、人材不足もあいまって老朽化してもすぐに改善することができず、今後修正をせずにいる企業は多くの事業機会を失うと予想されています。
問題点②IT人材の不足
2020年時点で、約19万の人材不足が予想されるIT人材ですが、2025年までには不足が43万人まで拡大するといわれています。
今後はさらにITエンジニアの確保と教育が課題になります。IT技術の進化のスピードが速い中で、新たな技術に関する再教育をどうするのか、世の中の変化に伴い新しい人材を如何に確保するか等、全体として人材確保について悩みを抱える企業は多いです。また、少子高齢化の中で新人の採用が困難な中、IT人材の確保は特に厳しく、人材の問題は喫緊の課題であると言われています。
これらの問題点を解決しなかった場合、サービス供給者側では、
・爆発的に増加するデータを活用しきれず、デジタル競争の敗者に
・多くの技術的負債を抱え、業務基盤そのものの維持・継承が困難に
・サイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブルやデータ滅失・流出等のリス
クの高まり
という結果がもたらされます。
また、サービス提供者側では、
・技術的負債の保守・運用にリソースを割かざるを得ず、最先端のデジタル技術を担う人材を確保できない
・レガシーシステムサポートに伴う人月商売の受託型業務から脱却できない
・クラウドベースのサービス開発・提供という世界の主戦場を攻めあぐねる状態に
といった結果がもたらされます。
そして最終的にこの問題を克服できない場合は、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性が示唆されています。ここまでが、「2025年の崖」の概要です。
【DX実現シナリオ】
経済産業省はDXレポートの中で、2025年までの間に複雑化・ブラックボックス化した既存システムについて、廃棄するものを仕分けしながら、必要なものについて刷新しつつ、デジタル・トランスフォーメーションを実現するシナリオを発表しています。
対策としては、2020年までに
・「見える化」指標による診断・仕分け
・「DX推進システムガイドライン」を踏まえたプランニングや体制構築
・システム刷新計画策定
・共通プラットフォームの検討 等
2021年から2025年までに
・経営戦略を踏まえたシステム刷新を経営の最優先課題とし、計画的なシステム刷新を断行
(業種・企業ごとの特性に応じた形で実施)
・不要なシステムの廃棄、マイクロサービスの活用による段階的な刷新、協調領域の共通プラットフォーム活用等により、リスクを低減
として指標を定めています。
これらの対策を行うことにより、ブラックボックス化の解消や、既存システム上のデータを活用した本格的なデジタル・トランスフォーメーションが可能になります。そして、新たなデジタル技術を導入して変革を実現できます。
対策を行った後に予想されるシナリオは以下に記述します。
サービス供給者:
・技術的負債を解消し、人材・資金を維持・保守業務から新たなデジタル技術の活用にシフト
・データ活用等を通じて、スピーディな方針転換やグローバル展開への対応を可能に
・デジタルネイティブ世代の人材を中心とした新ビジネス創出へ
サービス提供者:
・既存システムの維持・保守業務から、最先端のデジタル技術分野に人材・資金をシフト
・受託型から、AI、アジャイル、マイクロサービス等の最先端技術を駆使したクラウドベースのアプリケーション提供型ビジネス・モデルに転換
・ユーザにおける開発サポートにおいては、プロフィットシェアできるパートナーの関係に
対策を行い、最終的に上記のことが実現された場合、2030年、実質GDP130兆円超の押上げを実現できるといったシナリオです。
また、経済産業省では、各企業が簡易な自己診断を行うことを可能とする「DX推進指標」を発表しています。この指標では各項目について、経営幹部、事業部門、DX部門、IT部門などが議論をしながら回答することを想定しています。
【まとめ】
企業の規模や業務内容に応じてデジタル・トランスフォーメーションの対策は様々です。しかし共通点として予想されるのが、今後は、さらにデータを用いた環境に移行して、ビジネスがさらに活発になるということです。テレワークをはじめ、数か月で働き方が変わったと実感している人も多いと思います。また、新型コロナウイルスの影響もあり、テレワークに必要なペーパーレス化や業務改善が促進しました。今回のような場合だと、感染拡大の恐れがあることから、急なテレワークになったケースもあるかもしれません。急な対応だと不備が生まれてしまう可能性があるため、事前の準備が必要になってきます。
同様にデジタル・トランスフォーメーションの推進も2025年になってシステムの改修を行うことやIT人材を集めるのではなく、早めに対策をとることが「崖」を乗り切るためには必要だと考えられます。まだ対策を講じていなくとも遅すぎるということはありません。業務改善や効率化を通して、成功した事例をつくり、それを少しずつ積み重ねることをきっかけに、身近なところから意識を変えることが数年後の未来に向けて肝心なのではないでしょうか。
最新記事 by SR人事メディア編集部 (全て見る)
公開日: