高年齢者雇用安定法改正?これからの高齢者雇用とは
年々高齢労働者が増えていく中、どの企業にとっても取り組むべき問題である高齢者雇用について紹介させていただきます。政府は人生100年時代の到来、ライフスタイルの多様化、技術の進展といった世の中の変化に対応するため全世代型社会保障を目指し、様々な人の働き方を見直しています。その中でも2020年2月4日に70歳までの就業機会確保への努力義務を課す高年齢者雇用安定法の改正案、通称「70歳定年法」が閣議決定、その後衆議院可決され、これからますます高齢者の雇用に様々な変化が起きていくと考えられます。
1.高年齢者とは
高齢者の雇用に関しては高年齢者雇用安定法という法律が定めています。この法律の第一条にはこう記されています。
この法律は、定年の引上げ、継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進、高年齢者等の再就職の促進、定年退職者その他の高年齢退職者に対する就業の機会の確保等の措置を総合的に講じ、もって高年齢者等の職業の安定その他福祉の増進を図るとともに、経済及び社会の発展に寄与することを目的とする。 |
ここでいう高年齢者とは一体何歳のことかというと「55歳以上」の方をいいます。イメージだと60歳や65歳を想起される方も多いかもしれませんが、法律上では55歳以上の方から高年齢者という枠組みで原則捉えられています。
(法令や制度などによって高齢者の定義はまちまちであるので注意する必要があります。)
2.現行法における高齢者雇用
高年齢者雇用安定法の第8条で定められているのが定年を定める場合の下限です。現在は、60歳を下回る定めをすることができないと定められています。ただ一部高年齢者が従事することが困難であると認められる業務として厚生労働省令で定める業務に関しては60歳を下回る定年を定めることができます。また、65歳を下回る定年を定めている事業主はその雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため次のいずれかの措置を講じなければなりません(義務)。
1. 当該定年の引き上げ
2. 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう)の導入
3. 当該定年の定めの廃止
おそらく一番多く定められているのは2番の継続雇用制度かと思われます。以前では労使協定によって、この継続雇用制度の対象者を限定(例えばある一定の役職以上の者であったり勤続年数〇年以上などです)することができましたが、2013年の改正によってこの限定をすることができなくなりました。つまり、希望する人は全員継続雇用させなければいけないという事です。但し、2025年までの間は経過措置として以下のように定められています。
(2013年3月31日までに継続雇用制度の対象者を限定する基準を労使協定で設けている場合)
2019年3月31日まで 62歳以上の人に対して | 継続雇用の対象者を限定する基準が適用できる |
2022年3月31日まで 63歳以上の人に対して | |
2025年3月31日まで 64歳以上の人に対して | |
2025年4月1日より 実質的に65歳定年に |
この定年年齢、雇用継続確保に違反した場合にはどうなるのか。まずは行政からの指導・助言または勧告が行われます。そのうえで従わなかった場合は企業名を公表されることになります。厚生労働省のホームページや新聞などでここの会社は助言、勧告に従わない会社ですと周知がされてしまうため、企業にとってはかなりのイメージダウンとなります。
3.高年齢者雇用安定法の改正案
2月4日に閣議決定され、3月19日に衆議院可決された雇用保険法等の一部を改正する法律案には「高齢者の就業機会の確保及び就業の促進」ということで高年齢者雇用安定法の改正も含まれています。
その内容として、
- 定年廃止
- 定年引上
- 65歳以上継続雇用制度の導入
があり従来の65歳までの安定した雇用を確保するための措置が70歳まで、とされるような内容となります。
(65歳以上継続雇用制度の導入には定年後または65歳までの継続雇用終了後、子会社・関連会社等以外の再就職の実現も含む)
また、上記3つに以外にも労使で合意した場合には、創業支援等措置として以下の対応が可能とされました。(本人が希望する場合)
- 定年後または65歳までの継続雇用終了後に創業(フリーランス・起業)する者との間で、70歳まで継続的に業務委託契約を締結
- 定年後または65歳までの継続雇用終了後に以下の社会貢献活動に70歳まで継続的に従事する委託契約を締結
・事業主が自ら実施する事業
・事業主が委託、助成、出資等するNPO等の団体が行う事業
同時に、雇用継続や同一労働同一賃金により定年後の処遇も見直されていることも踏まえ、高年齢雇用継続給付金を令和7年度から縮小することも法案には盛り込まれています。
4.高年齢者が離職する場合の企業対応
高年齢者が離職する場合においても事業主が講じなければならない措置もあります。
①再就職援助措置
事業主はその雇用する高年齢者等が解雇(自己の責めに帰すべき理由によるものを除く。)その他これに類するものとして厚生労働省令で定める理由により離職する場合において、当該高年齢者等が再就職を希望するときは、求人の開拓その他当該高年齢者等の再就職の援助に関し必要な措置を講ずるように努めなければなりません。
②多数離職の届出
事業主はその雇用する高年齢者等のうち5人以上の者が1か月以内の期間に解雇等により離職する場合には、多数離職届を当該届出に係る離職が生ずる日の一月前までに当該事業所の所在地を管轄する公共職業安定所長に提出することによって行わなければなりません。
③求職活動支援書の作成
事業主は解雇等により離職することになっている高年齢者等が希望する時はその円滑な再就職を支援するため、当該高年齢者等の職務の経歴、職業能力その他の当該高年齢者等の再就職に資する事項及び事業主が講ずる再就職援助措置を明らかにする書面を作成し、当該高年齢者等に交付しなければなりません。
5.まとめ
改正高年齢者雇用安定法が成立した場合、施行日は令和3年4月の予定です。これからますます就業人口の増えていく高齢者の選択肢が多様化されていく中、それを社内の制度としてきちんと取り込まなければなりません。今は段階的に変化している時期ではありますが、早めに定年制度や継続雇用制度を見直し規程等に反映していく必要があります。
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