セブンイレブン残業代未払い4.9億‥計算ミスを防ぐためには
セブンイレブン・ジャパンで約7年にわたりアルバイト社員、パート社員の残業代の一部が未払いだったことが判明しました。今回の報道では対象者は3万人、未払い額は4億9000万にのぼると言われています。
今回は見落としがちな時給の給与計算について解説します。
時給の給与計算のキホン
時給制の場合の給与計算の基本は時給×労働時間です。そして時給制の場合にも残業代(割増賃金)の支払いは必ずしなくてはなりません。その他、会社の就業規則にある場合には各種の手当ての支払いも必要になります。
残業代計算
残業代は以下のようにその支払いが定められています。
労働基準法第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
残業代の額は、基本的には1時間当たりの賃金に、時間外労働・休日労働・深夜労働を行わせた時間数と割増率を掛け合わせてその金額を計算します。
割増率
割増率については、労働基準法では以下のように定められています。なお、これは法律で定める最低限の基準なのでこれを上回る割増率を設定することは可能です。
- 時間外労働:25%以上 …8時間(法定労働時間)を超えて労働した時間に適用
例①:時給1,050円で10時間労働した場合
1,050円×2時間×125%=2,625円
※実務では「1時間当たりの賃金額×(1+割増率)」とし、1時間当たりの残業代等の額を求め、その金額に時間外労働・休日労働・深夜労働を行わせた時間数を掛けあわせるのが一般的です。上記125%を25%と計算した場合、計算される金額は割増部分のみとなるので、その場合には100%で計算した金額と合算させる必要があります。
1,050円×2時間×25%=525円…2時間分の割増部分のみの賃金額
1,050円×2時間×100%=2,100円…2時間分の通常の賃金額
525円+2,100円=2,625円…8時間(法定労働時間)+2時間労働した時の8時間を越えた部分の残業代
- 法定休日労働:35%以上 …週に1回あるいは4週を通じて4日の休日に労働した時間に適用
例②:時給1,050円で休日に8時間労働した場合
1,050円×8時間×135%=11,340円
(8時間分の通常の賃金額8,400円+8時間分の割増部分のみの賃金額2,940円)
- 深夜労働:25%以上 …22時~翌5時の間に労働した時間に適用
例③:時給1,050円で22時から翌1時まで労働した場合
1,050円×3時間×125%=3,937.5 ⇒ 3,938円
(3時間分の通常の賃金額3,150円+3時間分の割増部分のみの賃金額787.5円)
1日に8時間を超えて、さらに22時以降に労働した場合には時間外労働25%+深夜労働25%の支払いが必要になるなど、割増率は加算されます。
1時間当たりの賃金額
1時間当たりの賃金額の計算方法は賃金形態によって異なります。月給制の場合には、月給の金額を月の所定労働時間数(月によって所定労働時間数が異なる場合には1年間の1ヶ月平均所定労働時間数)で割ることによって計算されます。
時給制の場合、【1時間当たりの賃⾦額=時給の⾦額】と考えてしまいがちですが、実際にはいわゆる【時給の⾦額】以外にも、割増賃金の対象となる諸手当が⽀給されている場合にはそれらも含めて【1時間あたりの賃⾦額】を計算する必要があります。
諸手当が固定的に支払われるものの場合、
例)1時間当たりの賃金額=時給の金額+(手当の額/月の所定労働時間)
(例えば、バイトリーダーに支払われる職務手当、欠勤が無い場合に固定額が支払われる精(皆)勤手当など)
諸手当が歩合によって支払われるものの場合、
例)1時間当たりの賃金額=時給の金額+(手当の額/賃金算定期間の総労働時間)
(例えば、10日以上出勤した場合に出勤日数に応じて支払われる精(皆)勤手当、売り上げに応じたインセンティブなど)
※これらの計算方法は一例ですので、個々の手当の正確な計算方法は所轄の労働基準監督署にご確認ください。
残業代に含めるもの、含めないもの
残業代を計算する際の基礎となる1時間当たりの賃金額を求める際には、以下の手当を除きすべてを計算の基礎に含めなければなりません。
残業代の基礎となる賃金から除外できるもの
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
これらは労働と直接的な関係が薄く、個々人の事情に基づいて支給される性質を持つため基礎となる賃金から除外することが出来ます。また、この1~7の賃金は単なる例示ではなく限定的に列挙されたものです。なのでこの1~7に該当しない賃金はすべて残業代の基礎に含まなければなりません。これは賃金形態を問いませんので、時給制の場合にも当然に残業代計算の基礎に含む必要があります。
また、これらの名称で呼ばれる手当であれば、ただちに残業代計算の基礎に含む必要がないと判断すべきではありません。これらの手当は「労働と直接的な関係が薄く、個々人の事情に基づいて支給される性質を持つ」からこそ残業代計算の基礎から除外出来るものなので、その名称ではなく実態によって判断する必要があります。
例外
上記1~7の手当については、基本的には全て残業代の基礎となる賃金から除く必要がありますが、例外もあるので注意が必用です。
残業代の基礎となる賃金から除外できないもの
例:家族手当…扶養家族の有無、家族の人数に関係なく一律に支給するもの
通勤手当…通勤に要した費用や通勤距離に関わらず一律に支給するもの
住宅手当…住宅の形態ごとに一律に支給するもの
まとめ
これからの年末年始にかけて人手不足の解消のために「繁忙期手当」を支給したり、特別な手当を独自に支給する会社も多くあるかと思いますが、それらが残業代の基礎に含めるものなのか・含めないものなのか、1時間当たりの賃金額の計算方法については月給制、時給制を問わず注意が必要です。意外と見落としがちなポイントなので、管轄の労働基準監督署や社会保険労務士に一度確認をしてみると良いかもしれません。
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吉田はづき
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