当事者でなくても知っておくべき 障害者雇用促進法とは
障害者、という言葉がある種タブーのようになってきている昨今ですが日本の法律の中で「障害者雇用促進法」という法律があることをご存知ですか?障害者の方もそうでない方も一緒に働ける社会を目指す為に、企業が守らなければならない法律です。事故にあったり、色々な要因で今障害をお持ちでなくてもいつ自分が障害者となるか誰にもわかりません。障害者の方はもちろん、障害者の方をよく知らない方も、この法律を知ることから始めてみませんか?
1 そもそも「障害者雇用促進法」って何?
この「障害者雇用促進法」という法律ができたのは昭和35年に制定された身体障害者雇用促進法というものが元になっています。その後、昭和62年に障害者の雇用の促進等に関する法律という名前に改められていわゆる「知的障害者」の方も対象とされることになりました。この法律の第一条には総則として次のように定められています。
第一条 この法律は、障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会及び待遇の確保並びに障害者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするための措置、職業リハビリテーションの措置その他障害者がその能力に適合する職業に就くこと等を通じてその職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、もつて障害者の職業の安定を図ることを目的とする。 |
つまり、障害者の方もそうでない方も同じように仕事に就くことができ、その能力を発揮することができるよう障害者の方に必要な支援を行い、障害者でない方と同じように仕事をしてお給料をもらって生活ができるようにしましょう、という内容です。
2 大事な「法定雇用率」の事
さて、障害者の方に関する定めが法律でなされているということがわかりました。では実際、会社の経営者がこの法律で守らなければならないことには何があるのでしょうか?もちろん様々な定めがされているのですが、その中でも特に重要である「法定雇用率」についてお話をしたいと思います。従業員に占める「身体障害者・知的障害者・精神障害者」の割合を法定雇用率以上にする義務が事業主には課されています。例えば従業員が100人いて、その中に障害者の方が1人いる時は雇用率は1%ということになります。この雇用率を法で定める割合まで障害者の方を雇用しなければなりません、というのが法定雇用率の簡単な考え方です。平成30年4月1日より、この法定雇用率が改正されました。
事業主区分 | 法定雇用率 |
民間企業 | 2.2% |
国、地方公共団体等 | 2.5% |
都道府県等の教育委員会 | 2.4% |
一般の会社といわれる企業では法定雇用率は2.2%と定められています。従業員の数が「45.5人以上」の会社では少なくとも1人は障害者の方を雇用しなければならないということになります。先ほどの例で出した100人の従業員の方がいる会社では障害者の方が2人いても雇用率は2%ですので法定雇用率を下回っていることになります。つまり100人の従業員の方がいる場合は障害者の方が3人以上(2.5人以上)いなければいけないということになるわけです。これが法定雇用率、というものになります。
3 障害者の方の人数の数え方
法定雇用率を達成するために障害者の方を雇用する場合でも、その雇用形態に応じて人数の数え方が変わってきます。その算出方法は以下の通りです。
要件1 精神障害者である短時間労働者であること |
要件2 次のⅠ又はⅡのいずれかに当てはまる者であること
Ⅰ 新規雇入れから3年以内の者 Ⅱ 精神障害者保健福祉手帳の交付日から3年以内の者 |
要件3 次のⅠ及びⅡのいずれにも当てはまる者であること
Ⅰ 平成35年3月31日までに雇い入れられた者 Ⅱ 平成35年3月31日までに精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた者 |
この人数の数え方で、前述の法定雇用率を達成することができればいいということです。
簡単に図にすると以下のようになります。
法定雇用率のカウント方法 | 常用労働者 | 短時間労働者 | |
身体障害者 | 軽度 | 1人 | 0.5人 |
重度 | 2人 | 1人 | |
知的障害者 | 軽度 | 1人 | 0.5人 |
重度 | 2人 | 1人 | |
精神障害者 | 重度軽度の 区別なし |
1人 | 0.5人 (特例は1人) |
4 障害者雇用納付金制度とは?
この法定雇用率を達成した場合、また達成していなかった場合、どういうことになるのか。厚生労働省のホームページには以下のように記載されています。
障害者を雇用するためには、作業施設や作業設備の改善、職場環境の整備、特別の雇用管理等が必要となるために、健常者の雇用に比べて一定の経済的負担を伴うことから、障害者を多く雇用している事業主の経済的負担を軽減し、事業主間の負担の公平を図りつつ、障害者雇用の水準を高めることを目的として 「障害者雇用納付金制度」が設けられています。
具体的には
つまり、101人以上の労働者を雇用している企業で、法定雇用率を達成していない場合には障害者雇用納付金というものが徴収されてしまうのです。その額は法定雇用障害者数に不足する障害者数に応じて1人につき月額50,000円(ただし、100人を超え200人以下の事業主については平成32年3月31日までは月額40,000円)の障害者雇用納付金を納付しなければならないこととされています。
一方、常時雇用している労働者数が100人を超える事業主で障害者雇用率(2.2%)を超えて障害者を雇用している場合は、その超えて雇用している障害者数に応じて1人につき月額27,000円の障害者雇用調整金が支給されます。また、常時雇用している労働者数が100人以下の事業主で、各月の雇用障害者数の年度間合計数が一定数(各月の常時雇用している労働者数の4%の年度間合計数又は72人のいずれか多い数)を超えて障害者を雇用している場合は、その一定数を超えて雇用している障害者の人数に21,000円を乗じて得た額の報奨金が支給されます。つまり、法定雇用率を達成していれば報奨金がもらえ法定雇用率を達成していなければ納付金が徴収されるということです。
5 まとめ
今回は障害者雇用促進法の中でも一部の事だけを紹介しました。この法律には他にも障害者の方を雇用する際に気を付けなければならないことや利用できる制度などいろいろな事が定められています。最近では国の省庁や地方公共団体でも障害者数の水増しが発覚し大きな問題となりました。前述の通り、一般の企業よりも国や地方公共団体は法定雇用率は高いものとなっていますがこれを誤魔化していたわけです。当然許されるものではありませんが、それだけ障害者の方を雇用し一般の方と同じように活躍の場を設けるということが、企業の大小問わず難しいということが明らかになっているわけです。しかし、障害者の方でも自分は働きたい、自分のキャリアを築きたいという方も当然いらっしゃるわけです。障害者の方も自由に仕事を選択し、自分の人生設計をすることができる。そんな世の中を目指していく為に、まずはその第一歩としてこの障害者雇用促進法を知る、ということから始めていきませんか?
深谷 健太
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