御社がもし10人の事業所だったら~労働者が10人になると増える義務~【後編】

 

従業員が10人を超えると、会社の義務は大きく増えることとなります。

御社がもし10人の事業所だったら~労働者が10人になると増える義務~【前編】では、以下についてご確認をいただいました。

 

・就業規則の作成、届出、周知 (変更の場合も同様)
・安全衛生推進者または衛生推進者の選任および関係労働者への周知

 

それでは、他の義務についてご説明いたします。

 

 

1. 労働基準法の特例措置の非該当

 

 

労働基準法では労働時間についての上限を規定しておりますが、 特定の業種のうち労働者が10人未満の事業場に対しては特例措置がございます。
すなわち、労働者が10人以上となる事業所では、当該特例措置が非該当になります。

 

まずは原則から確認を致しましょう。

 

*************************************************************************

労働基準法 第32条
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一 日について八時間を超えて、労働させてはならない。
*************************************************************************

 

使用者は原則として1週間につき40時間1日につき8時間を超えて労働者を労働させることができません。
しかし、 労働基準法施行規則において、特定の業種で、かつ労働者が10人未満の事業場は、1週間につき44時間まで労働者を労働させることが可能となります。

 

なお、1日につき8時間までしか労働者を労働させられないのは特例措置対象事業場でも変わりません。

ですので、1週間に44時間の所定労働時間を定めるためには、例を挙げるならば、1週間の所定労働日数を6日として、それぞれ8時間を超えない所定労働時間を定める等の対応が必要となります。

 

では、特例措置の対象となる事業場を確認いたしましょう。

 

*************************************************************************

労働基準法施行規則 第25条の2
使用者は、法別表第一第八号、第十号(映画の製作の事業を除く。)、第十三号及び第十四号に掲げる事業のうち常時十人未満の労働者を使用するものについては、法第三十二条の規定にかかわらず、一週間について四十四時間、一日について八時間まで労働させることができる。
*************************************************************************

*************************************************************************

労働基準法別表第1

八 物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業

十 映画の製作又は映写、演劇その他興行の事業

十三 病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業
十四 旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業

*************************************************************************

 

対象となるのは不動産業、出版業、医療事業、飲食店、サービス業などです。

「10人未満」という上限は事業場ごとに数えられますので、たとえ会社単位では10人を超えた労働者を雇用しているとしても、事業場単位では10人を満たしていないのであれば、事業場それぞれが特例措置の対象となります。

 

しかし、労働者が10人以上になると、どの事業であっても特例措置を受けることができなくなりますので、労働基準法通りに1週間に40時間を労働時間の上限としなければならないのです。

所定労働時間を44時間と定めていた事業場は労働条件の見直し等が必要となりますので、注意が必要です。

 

 

2. 源泉所得税および住民税の納期の特例の非該当

 

 

税手続きに関しては納期が定められておりますが、給与の支給人員が10人未満の事業場に関しては納期の特例が受けられます。

すなわち、給与の支給人員が10人以上となる事業所では、当該特例措置が非該当になります。

 

納期の特例は源泉所得税と住民税で受けることができます。

それぞれ確認をいたしましょう。

 

 

①納期の特例とは

 

源泉所得税は、原則として徴収した日の翌月10日が納期限となっております。

しかし、所得税法第216条において、給与の支給人員が常時10人未満である源泉徴収義務者は、給与や退職手当、税理士等の報酬・料金について源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税について、年2回にまとめて納付できるという特例制度がございます。

 

特例を利用した際の源泉所得税の納期は以下の通りです。

1月から6月までに支払った所得から源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税  … 7月10日
7月から12月までに支払った所得から源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税  … 翌年1月20日

 

 

これは住民税にも同様の制度があり、毎月10日に納付義務がある特別徴収において、常時10人未満の事業主に限り、従業員の居住する区市町村に申請書を提出し承認を受けた場合には、年2回の納付とすることができます。

 

特例を利用した際の住民税の納期は以下の通りです。

6月から11月までに給与から控除した住民税  … 12月10日
12月から翌年5月までに給与から控除した住民税  … 翌年6月10日

 

 

これらの制度を利用するにおいて注意が必要なのは、就業規則等とは異なり役員も人数に含まれるということ。

給与の支給人員の数を数えるにあたり、給与の定義がポイントとなりますが、この給与は所得税法第28条1項に規定する給与所得を意味し、これには役員報酬が含まれます。

 

ですので、役員の数も含めて給与の支給人員が10人未満でなければ本特例は非該当となってしまうのです。

 

*************************************************************************

所得税法 第216条

居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(以下この章において「給与等」という。)又は第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等(以下この章において「退職手当等」という。)の支払をする者(第百八十四条(源泉徴収を要しない給与等の支払者)に規定する者を除く。)は、当該支払をする者の事務所、事業所その他これらに準ずるものでその支払事務を取り扱うもの(給与等の支払を受ける者が常時十人未満であるものに限る。以下この章において「事務所等」という。)につき、当該事務所等の所在地の所轄税務署長の承認を受けた場合には、一月から六月まで及び七月から十二月までの各期間(当該各期間のうちその承認を受けた日の属する期間については、その日の属する月から当該期間の最終月までの期間とする。以下この条において同じ。)に当該事務所等において支払つた給与等及び退職手当等(非居住者に対して支払つた給与等及び退職手当等並びに第二百四条第一項第二号(源泉徴収をされる報酬又は料金)に掲げる報酬又は料金を含む。以下この条において同じ。)について第二章から前章まで(給与所得等に係る源泉徴収)の規定により徴収した所得税の額を、これらの規定にかかわらず、一月から六月までの期間に係る給与等及び退職手当等について徴収した所得税の額にあつては当該期間の属する年の七月十日までに、七月から十二月までの期間に係る給与等及び退職手当等について徴収した所得税の額にあつては当該期間の属する年の翌年一月二十日までに国に納付することができる。

*************************************************************************

*************************************************************************

第二十八条 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。

*************************************************************************

 

 

②非該当になった際に必要な手続きとは

 

 

先述の納付の特例に関しては、受けることが可能というだけで義務ではございません。

ですので、給与の支給人員数に関わらず毎月納付をしているということもあるでしょう。

その場合には必要な手続きはございません。

 

しかし、特例を受けていた事業所の給与の支給人員が10人以上となった場合は、非該当になるにあたっての手続きが必要となります。

 

そもそも、それぞれ特例を受けるにあたって申請書を提出することが必要なのですが、特例に該当しなくなった事実が発生した場合にも遅滞なくその旨を届け出なければなりません。

 

 

源泉所得税の場合 (所轄の税務署へ提出)

特例措置の申請 : 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

特例措置非該当の届出 : 源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書

 

住民税の場合 (各従業員が居住する市区町村に提出)

特例措置の申請 : 特別徴収税額の納期の特例に関する申請書

特例措置非該当の届出 : 特別徴収税額の納期の特例の要件を欠いた場合の届出書

 

 

 

なお、これら届出書を提出した場合には、特例により納付していなかった税額を、届出書を提出した日の属する月の翌月10日までに納付しなければなりません。

 

例えば1月から6月までの源泉所得税を7月10日に支払う申請をしていたとします。

そして4月1日に源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書を提出しました。

 

すると、5月10日に1月から4月までの源泉所得税をまとめて支払い、翌月以降は各月に源泉徴収した税額を、毎月翌月10日までに納付することになるのです。

つまり、5月の源泉所得税は6月10日に、6月の源泉所得税は7月10日に支払いの義務が発生します。

 

 

このように、届出書を提出すると納付期限が変わりますので、うっかり納付期限を過ぎてしまわないようお気を付けください。

 

 

3. 附属寄宿舎に関する監督上の行政措置

 

 

労働基準法第96条の2において、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、附属寄宿舎の設置・移転・変更について監督上の行政措置を講じなければならない旨、規定されております。
まずは条文を確認いたしましょう。

 

*************************************************************************

労働基準法 第96条の2
使用者は、常時十人以上の労働者を就業させる事業、厚生労働省令で定める危険な事業又は衛生上有害な事業の附属寄宿舎を設置し、移転し、又は変更しようとする場合においては、前条の規定に基づいて発する厚生労働省令で定める危害防止等に関する基準に従い定めた計画を、工事着手十四日前までに、行政官庁に届け出なければならない。

*************************************************************************

 

そもそも附属寄宿舎がない、今後も設置の予定がないのであれば、労働者が10人に増えたとしても義務として増えるものはございません。

 

 

①附属寄宿舎とは

 

附属寄宿舎とは、事業に付属して設置された、労働者が宿泊する施設のことです。

通達においては、附属寄宿舎は「常態として相当人数の労働者が宿泊し共同生活の実態を備えるもので、事業経営の必要上その一部として設けられているような事業との関連をもつものをいう。」と定義されております。

 

寄宿舎であるか否かは、概ね、相当人数の労働者の宿泊の有無、独立又は区画された施設か否か、共同生活の実態を備えているかどうかを基準として総合的に判断されます。

 

つまり、以下を兼ね備えていると総合的に判断されるものは、附属寄宿舎であると考えられます。

 

 

(1)状態として相当人数の労働者が宿泊している
(2)共同生活の実態を備えている
(3)独立又は区画された施設である
(4)事業との関連を持つ

 

 

社宅や社員寮として企業が所有しているマンションがあり、そこに住むように斡旋をすることがあるかもしれません。
しかし、各従業員が個別の居住空間にて生活をしているのであれば、それは寄宿舎には当てはまらないでしょう。

 

寄宿舎であるためには、単にトイレ、炊事場、浴室等が共同になっているだけでなく、一定の規律、制限をもって共同生活を営んでいる、というような状況が必要であると考えられます。
食事の準備や掃除が当番制であったり、門限があるような寮や、シェアハウスのようなものだと寄宿舎と判断されるものもあるかもしれません。

 

 

②監督上の行政措置とは

 

 

もし御社にて附属寄宿舎を設置・移転・又は変更しようとする場合には、危害防止等に関する基準に従い定めた計画を、工事着手14日前までに、労働基準監督署長に届出しなければなりません。
定めた計画が規定の基準に達していない場合や、労働者の安全及び衛生に必要であると認める場合は、労働基準監督署長は工事の着手を差し止め、又は計画の変更を命ずることができます。

 

*************************************************************************

第96条の3

労働者を就業させる事業の附属寄宿舎が、安全及び衛生に関し定められた基準に反する場合においては、行政官庁は、使用者に対して、その全部又は一部の使用の停止、変更その他必要な事項を命ずることができる。
○2 前項の場合において行政官庁は、使用者に命じた事項について必要な事項を労働者に命ずることができる。
*************************************************************************

 

また、労働者を寄宿させる使用者は、寄宿舎規則を作成しなければなりません。

この寄宿舎規則は作成のほかに届出、周知義務もございますが、これらは就業規則と同様の趣旨となります。

 

*************************************************************************

労働基準法 第九十五条

事業の附属寄宿舎に労働者を寄宿させる使用者は、左の事項について寄宿舎規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。これを変更した場合においても同様である。
一 起床、就寝、外出及び外泊に関する事項
二 行事に関する事項
三 食事に関する事項
四 安全及び衛生に関する事項
五 建設物及び設備の管理に関する事項
○2 使用者は、前項第一号乃至第四号の事項に関する規定の作成又は変更については、寄宿舎に寄宿する労働者の過半数を代表する者の同意を得なければならない。
○3 使用者は、第一項の規定により届出をなすについて、前項の同意を証明する書面を添附しなければならない。
○4 使用者及び寄宿舎に寄宿する労働者は、寄宿舎規則を遵守しなければならない。

*************************************************************************

 

 

 

以上をまとめますと、労働者が10人以上になると増える義務は以下の5点となります。

 

 

・就業規則の作成、届出、周知 (変更の場合も同様)

・安全衛生推進者または衛生推進者の選任および関係労働者への周知

・労働基準法の特例措置の非該当に対応した労働条件の見直し

・源泉所得税と住民税の納期の特例の非該当に対応した手続き

・附属寄宿舎の設置、移転、変更の際の届け出義務、ならびに寄宿舎規則の作成、届出、周知義務

 

 

4. おわりに

 

 

いかがでしょうか。

労働者が10人以上となると組織運営における義務が大きく増えるということをご確認いただけたかと存じます。

 

組織体制を整えたうえでの、御社のより一層の飛躍と発展をお祈り申し上げております。

 

 

関連記事はこちら

御社がもし10人の事業場だったら~労働者が10人になると増える義務~【前編】

御社がもし50人の事業所だったら~労働者が50人になると増える義務~

 

The following two tabs change content below.

Ari

大小様々な規模の企業の社会保険手続きや給与計算業務に携わりながら、主に自分が知りたいことを記事にしている。業務効率化のためのツールも開発中。趣味は読書。某小さくなった名探偵マンガの主人公の書斎を再現することが夢。

最新記事 by Ari (全て見る)


公開日:

日常業務に関するちょっとした疑問から、コンプライアンス、人事戦略まで、お気軽にご相談ください。

無料労務相談のお申し込みは、以下のバナーからどうぞ!
無料労務相談のお申し込み
PAGE TOP ↑