雇用時に「身元保証書」を回収する必要がある?

企業は社員の雇用時に「身元保証書」を回収する必要がありますでしょうか?回収しない場合どのような対処法がありますか?

回答

A. 法律上の義務はありません。回収しない場合でも適切な対応策を講じることが重要です。

身元保証書は、従業員が会社に損害を与えた場合に、身元保証人がその損害を賠償することを約束するものです。

しかし、企業が従業員を雇用する際に身元保証書の提出を義務付ける法律はありません。 労働基準法においても、採用の条件として身元保証書の提出を義務付ける規定はありません。

かつては慣習として広く用いられていましたが、近年はその有効性や人権上の問題点から、提出を求めない企業も増えています。


現在の身元保証書の規定や内容と問題点

身元保証書の主な規定は「身元保証ニ関スル法律」に定められています。この法律により、身元保証人には以下のような制約があります。

期間の定め: 身元保証期間は最長5年とされ、更新がない場合は3年とされます。期間を定めても5年を超える部分は無効です。

保証範囲の限定: 保証人は、従業員が会社に与えた損害の全額を無条件に賠償する義務を負うわけではありません。
  裁判所は、従業員の過失の程度、使用者の監督責任、保証人が身元保証をするに至った経緯などを考慮して、賠償責任の範囲を減免できます。

保証人への通知義務: 会社は、従業員に業務上不適任な事実があった場合や、任務を怠ることで損害を発生させる恐れがある場合、または身元保証人の責任を免れさせるような異動があった場合は、保証人に通知する義務があります。この通知を怠ると、保証人の責任が軽減される可能性があります。

身元保証書の問題点としては、以下の点が挙げられます。

・回収・管理の負担: 提出を求める企業にとっては、書類の回収や管理に手間がかかります。

・効力の限界: 上記の通り、保証人の責任範囲には制約があり、想定通りの賠償を得られないケースも少なくありません。
特に、従業員本人に十分な資産がない場合、保証人に請求しても回収できない可能性もあります。

・採用活動への影響: 身元保証人の確保が難しい求職者にとっては、応募の障壁となる可能性があります。

・人権上の懸念: 連帯保証を求めることは、求職者の親族などに精神的・経済的な負担を強いることになり、人権上の問題も指摘されることがあります。


身元保証書を回収しない場合の対処法

身元保証書を回収しない場合でも、企業は以下のような対策を講じることで、リスクを低減し、問題発生時の適切な対処が可能です。

・採用時の人物評価の徹底:
採用面接やリファレンスチェック(前職への照会)を通じて、応募者の人物像やこれまでの勤務態度、信頼性などを多角的に評価する。
履歴書や職務経歴書の内容だけでなく、面接時のコミュニケーションや応募者の人柄を重視する。

・就業規則の整備と周知徹底:
服務規律、損害賠償に関する規定、懲戒規定などを明確に定め、従業員に周知徹底する。
特に、情報漏洩やハラスメント、会社資産の不正利用など、会社に損害を与える可能性のある行為に対する罰則を具体的に記載しておく。
入社時に就業規則の説明会を実施し、従業員から就業規則を理解し遵守することの同意を得ることも有効です。

・情報セキュリティ対策の強化:
企業秘密や個人情報の持ち出し防止策(アクセス制限、持ち出し記録、監視システム導入など)を徹底する。
情報セキュリティに関する従業員研修を定期的に実施し、意識向上を図る。

・内部通報制度の導入・活性化:
従業員が不正行為や問題行動を発見した場合に、匿名で通報できる窓口を設置し、従業員が安心して情報提供できる環境を整備する。
通報された内容に対して迅速かつ適切に対応する体制を構築する。

・ハラスメント対策の強化:
ハラスメント防止のための研修を定期的に実施し、相談窓口を設置する。
ハラスメントが発生した際には、迅速に事実確認を行い、加害者への厳正な処分と被害者へのケアを行う。

・問題発生時の適切な対処:
事実確認の徹底: 問題が発生した場合は、まずは客観的な事実関係を正確に把握する。関係者からの聞き取り、証拠の収集などを行う。

・本人への聞き取りと弁明の機会の付与:
従業員本人から事情を聴き、弁明の機会を与える。

・懲戒処分の検討と実施:
就業規則に基づき、行為の悪質性や会社への影響度合いに応じて、適切な懲戒処分を検討し、実施する。

・損害賠償請求の検討:
従業員の故意または重過失により会社に損害が生じた場合は、民法上の不法行為に基づき、従業員本人に損害賠償請求を行うことを検討する。この場合、身元保証書がなくても、従業員本人に対する請求は可能です。

・法的専門家への相談:
必要に応じて、弁護士などの専門家に相談し、法的な助言を得る。

 身元保証書は万能なリスクヘッジツールではありません。
それよりも、採用時の見極め、強固な社内規律の構築、そして問題発生時の迅速かつ適切な対応体制の整備が、企業が従業員を雇用する上でより重要であると言えるでしょう。
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