評価に応じた昇降格制度の導入について

人事制度(職能資格制度)の一部改定を行っています。

昇格基準が不透明だという意見が社員から出ていたため、3年連続A評価の社員を昇格させるという案を作成しましたが、経営陣から評価に応じた降格も検討することを要請されました。社員に十分説明したうえで制度改定を行おうと考えておりますが、不利益変更となり認められない場合もあるのでしょうか。

 

昇格(賃金増額):3年連続A評価

降格(賃金減額):3年連続E評価

※A~Eの5段階評価

回答

不利益変更となる可能性はあります。
一般的に、職能資格制度は技能・経験の積み重ねによる職務遂行能力を基準に等級を構成します。そして一度身に付いた職務遂行能力は減るものではないと考えられるため、職能資格の引き下げである降格は、職能資格制度において予定されていないことになります。そのため人事権を行使して職能資格を引き下げる場合には、就業規則等の明確な根拠規定が求められます。就業規則の改定により新たに賃金が下がる可能性を生じさせる場合は、社員が不利益を被る可能性が生じるため、就業規則の不利益変更法理にもとづき、変更の合理性の有無を確認する必要があります。(労契法10条)

具体的には、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであることが求められます。

アーク証券事件(東京地裁平12.1.31判決)では、就業規則の変更により降格制度を導入した結果、社員がそれまでの安定した地位を失い、かつ多数の労働者が降格や賃金減少の不利益を受けており、その程度もかなりのものであったが代償措置はとられておらず、労使間の利害調整も不十分であることから、就業規則の不利益変更の合理性を肯定することはできないとされました。

以上のように、貴社の状況を総合的に判断する必要がありますが、特に降格による賃金水準の減額割合や降格該当割合などの不利益の程度の設定、そして社員への十分な説明を行うことが重要となります。また、評価の妥当性(評価項目や基準の開示と妥当性・評価結果の開示と説明・評価の客観性等)が担保されていなければ、不当な評価結果に基づいた降格となりますので、評価の妥当性が担保できているかどうかもあわせてご確認ください。

会社・個人の成長を図るため、評価に応じた昇降格制度を導入する企業は増えています。評価が良い社員には昇格の機会を、悪い評価が続く場合は降格する可能性があるという緊張感を与え、社員それぞれが持つ力の向上・発揮を促す効果が一例として考えられます。貴社における制度導入主旨を社員の皆様に十分に説明し、不利益変更が争われるリスクを減らしていくことが必要不可欠です。
導入に際しては、一例ですが、降格制度の適用範囲を職務遂行能力が高い上位等級のみとし、下位等級に該当する社員には降格制度は適用しないなど、社員のみなさまが受け入れやすい制度構築をお薦めいたします。
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公開日: 労務管理 賃金

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