使用人兼務役員とはどの様なものでしょうか。通常の役員との違いについて
従業員の方が現在の役職を維持した上で、いわゆる使用人兼務役員となられることがあるかと存じますが、どの様な場合に使用人兼務役員になることが出来、通常の役員とどのような所が違うのでしょうか。その要件や、通常の役員との違いについてお話しします。
1.使用人兼務役員とは
使用人兼務役員とは、法人の役員でありながら、「法人の使用人としての身分」を持ち、常時使用人としての職務に従事している者を指します。
ここで言う「法人の使用人としての身分」とは、部長や課長など、「使用人としての職制上の地位」のことです。例えば営業部長や工場長が取締役になったが、実際の勤務は従前と変わらず、役職、勤務実態ともに使用人としての色合いが強いような場合は、使用人兼務役員とすることが出来ます。なお、以下のような場合は対象外となります。
(1) 「~担当取締役」といった呼称の場合。これは役員の中での役割分担であり、職制上の役職ではないとされています。
(2) 非常勤の場合。使用人兼務役員は常時使用人としての業務に従事していなければならないとされているため、非常勤取締役等は使用人兼務役員にはなれません。
また、職制上の地位が明確に定められていない中小企業などにおいては、「常時従事している職務が他の使用人の職務の内容と同質であると認められるものについては、使用人兼務役員として取り扱うことができる(法人税法基本通達9-2-6より抜粋)」と定められています。
一方、以下のような方は使用人兼務役員になることは出来ません。
(1) 会社の代表権を持つ者や会社を代表する権限を持ち、私法上の責任を有する者。
・代表取締役、代表執行役、代表理事及び清算人
・副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員
・合名会社、合資会社及び合同会社の業務執行社員
(2) 会社法等で使用人との兼任が不可の者
・取締役(委員会設置会社の取締役に限る)、会計参与及び監査役並びに監事
(3) 同族会社の「みなし役員」の規定による、株式の所有割合による判定要件を満たしているもの
(3)は具体的には、同族会社の役員のうち、株式保有要件である「50%超基準、10%超基準、5%超基準」全ての要件を満たす場合を指します。
これらの基準は、以下のとおりとなります。
①50%超基準
所有割合が最も大きい株主グループから順位付けをし、上位3位以内の株主グループのうち、上位から所有割合が初めて50%超となる株主グループにその者が属していること
②10%超基準
その者の属する株主グループの所有割合が10%を超えていること
③5%超基準
その者(その配偶者及びこれらの者の所有割合が50%を超える他の会社を含む)の所有割合が5%を超えていること
①については少々分かり辛いのでもう少し詳しく説明しますと、ある会社の株主グループの中で所有割合が上位のグループA、B、Cがあったとしまして、
(a)Aのみで所有割合が50%を超える場合に、対象の役員がAに所属している。
(b)ABを合計すると50%を超える場合に、対象の役員がAもしくはBに所属している。
(c)ABCを合計すると50%を超える場合に、対象の役員がABCのいずれかに所属している。
(a)(b)(c)のいずれかに該当する場合、①の要件を満たすことになります。
上記は法的な要件となりますが、使用人兼務役員として認められるかについて、実際の判例等による判断基準としては
(1) 実際の業務が使用人としての性質を有しているか。
(2) 労働時間他、使用人としての拘束性があるか。
(3) 支払われている給与の役員報酬部分と使用人としての給与部分を比較して、給与部分の方が多いか。
等により、総合的に判断されているようです。
2.役員と兼務役員の処遇の相違点
では、処遇面においては役員と使用人兼務役員とではどのように違うのでしょうか。
主な相違点は以下のとおりとなります。
(1) 給与
通常、役員報酬は期を通じて同額で支払う必要があります。兼務役員についてもそれは同じなのですが、兼務役員の給与は役員部分と使用人部分の両方について支払いがあるため、使用人部分については支払額を変動させることが出来ます。
実際の運用上は、まず、役員報酬部分を分けて考える必要があるため、給与明細上でこれを明確に区別しておく必要があります。このうちの役員報酬部分については、通常の役員と同じく、原則として期を通じて報酬額を変更することは出来ません。一方、使用人部分については、一般の従業員と同じく毎月の勤務状況等に応じて支給額の変更が可能です。
(2) 賞与
役員に支払う賞与は事前に事前確定届出給与の届出を提出する必要があります。しかし、使用人兼務役員については、使用人部分についての賞与は届出の必要がございません。
ただし、支払額については、同程度の職位にある者と同水準であり、賞与の支払日については「他の使用人に対する賞与と同時期」に支給することが必要であるとしております。
※「同時期」は「同日」と同じであるとされているようです。
(3) 雇用保険
役員は雇用保険に加入することができませんが、使用人兼務役員については、雇用保険に加入することが出来ます。ただし、ハローワークに被保険者として認定を受ける必要があります。
ハローワークに被保険者として認定を受けるためには、該当の役員の方の労働者性を認められる必要があります。
そのための判断基準としては、以下のものが挙げられます。
①労働者(使用人)としての給与額が役員報酬額を上回っているか。
②就業規則の適用を受けているか。
③勤務場所や勤務時間等の拘束を受け、勤怠管理されているか。
また、手続きにあたっては以下の書類を提出する必要があります。
【ハローワークで認定を受けるために必要な書類】
・兼務役員雇用実態証明書
・役員就任時の登記簿謄本
・取締役会議事録
・定款
・就業規則
・役員報酬規程(給与および役員報酬の決定文書)
・役員就任時の人事組織図
・労働者名簿
・賃金台帳
・就業記録(タイムカード等)
上記の書類を提出の上、対象の役員に労働者性が認められれば、雇用保険被保険者となることが出来ます。
なお、労働者性があったとしても、対象の役員が業務執行権を持っていた場合、雇用保険被保険者になることはできませんのでご注意下さい。
また、雇用保険被保険者の適用を受けた後は給与から雇用保険料の控除を受けることになりますが、雇用保険料の対象となるのは給与のうちの使用人部分についてのみとなりますので、給与計算時に誤って役員報酬部分を計算に含めない様にして下さい。
(4) その他
使用人兼務役員は労働者性を有するため、労働者としての部分については就業規則等の適用を受けます。
よって、有給休暇の取得や深夜労働分の支給等、一般の従業員に適用される制度については使用人部分の範疇において使用人兼務役員にも適用されます。
3.おわりに
如何でしょうか。使用人兼務役員は「労働者性を有する役員」であるため、その決定においても、処遇においても、「実態が労働者」であることと、それを客観的に示せることが重要です。もし今後使用人兼務役員を選任される機会がございましたら、本記事をご参考にして下さい。
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