飲み会帰りの事故でも労災?知っておきたい夏の労災事例4選!

 

徐々に全国で梅雨が明け始め、本格的に夏の暑さが厳しい季節となりました。
仕事終わりに飲むビールを心待ちにしている方も多いのではないでしょうか。

そこで気になるのが、退社後の飲み会帰りに起きた事故は労働災害に当たるのかということ。

 

業務中に熱中症になったら労災は認められるのか?
通勤災害とは何なのか?
通勤ルートから外れた飲み屋で起きた事故は?
会社の決起会で生じた疾病は?

 

今回は使用者も労働者も気を付けたい真夏に起きやすい労災に関して、具体的な事例を用いたケーススタディをしていきましょう。

 

 

1. ケース1:業務中に熱中症になったら、労働災害は認められるのか?

 

 

 

ケース1:8月のある猛暑日、事務員であるAさんは、オフィスの空調が効かなかったことが理由で業務中に熱中症になってしまった。

 

 

労働災害というと、工事現場で働く方が現場の機械で負傷したような状況がわかりやすいですね。
労働災害が起きた場合の使用者の補償義務は、労働基準法第75条に規定されております。

 

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労働基準法
第七十五条  労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
2  前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。

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本条文を分解すると、労働災害が認められる要素は以下の3つに分けられます。

①労働者が
②業務上
③負傷又は疾病等の被害を受けること

 

今回のケースでは①労働者であることおよび③負傷又は疾病等の被害を受けることに関しては当てはまっているものとします。
では②業務上という文言に関してですが、これは業務遂行性業務起因性の2つの要素を含むものと考えられております。

この2点に関して少し掘り下げていきます。

 

①業務遂行性

 

負傷疾病死亡等の被害を受けた状況は「業務上」でなければなりま せん。
「業務上」とは、会社の支配下・管理下にあるということ。

時間的場所的に業務に関連すると考えられれば、休憩中や準備中であっても広く「業務上」であると判断されます。

今回はオフィスで仕事中に起きたものですので、業務遂行性は問題なく認められるでしょう。

 

②業務起因性

 

①業務遂行性があるとしても、労働者が受けた被害が業務に起因するものでなければ労災にはなりません。
極端な例を挙げるなら、オフィスで業務時間中に業務と全く関係ない日曜大工を行った結果、指先を怪我したなどでは労災とは認定されないでしょう。(大胆ですね!)

しかしそのような状況でなければ、業務を遂行している間の疾病に関して業務起因性は広く認められると考えられます。

なぜなら、労働環境の整備は使用者の義務として労働安全衛生法第65条3項に規定されているからです。

 

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労働安全衛生法
第六十五条の三  事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するように努めなければならない。

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これを今回の「空調が利かなかったことを原因とする熱中症」という状況にあてはめると、真夏に空調の整備を怠っていたのは使用者の義務違反に当たると考えられ、それを原因として熱中症という疾病を発症したのであれば業務起因性が認められるでしょう。
よって今回の事例は①業務遂行性と②業務起因性の2つの要素を含み、労災に該当します。

昨今では業務中に熱中症により死亡する事案が問題視され、熱中症が労災と認められた判例も多くございます。

 

 

2. ケース2:コンビニに寄り道した後に負った怪我は、労働災害と認められるのか?

 

 

ケース2:8月のある猛暑日、Bさんは出勤途中に、通勤経路にあるコンビニに立ち寄って飲み物を購入した。コンビニを出たところ、野良犬に噛まれて右手に全治1か月の怪我をしてしまった。

 

 

先ほどのケース1のような業務中に起きた労災は「業務災害」と言いますが、通勤中に発生した怪我であっても労災と認められる場合がございます。
こちらはいわゆる「通勤災害」と呼ばれるものです。

業務災害や通勤災害が労働災害の補償の対象であることは、労働者災害補償保険法に規定されております。

 

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労働者災害補償保険法
第七条  この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
一  労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」と いう。)に関する保険給付
二  労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」 という。)に関する保険給付

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また、同法同条2項においては、労災補償の対象となる「通勤」の 定義が規定されております。

 

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労働者災害補償保険法 第七条
2  前項第二号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。
一  住居と就業の場所との間の往復
二  厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
三  第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)
3  労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第一項第二号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。

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本条文を分解すると、通勤災害が認められる要素は主に以下の3つに分けられます。

 

①就業に関する移動
②道理的な経路及び方法
③移動の経路を逸脱、中断していない

 

今回は出勤中に通勤経路で負傷したケースになりますので、①就業に関する移動と②道理的な経路及び方法には当てはまるとします。
では、通勤中にコンビニに立ち寄るのは③移動の経路を逸脱、中断したことになるのでしょうか?

 

 

結論から言えば、今回のようなコンビニへの寄り道は合理的な経路から「逸脱」し、通勤を「中断」して通勤とは関係ない行為を行ったと判断されます。
しかし、同法同条3項但し書きにおいて、「ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。」との記載がございます。

 

寄り道であっても、暑い日に飲み物を買うためにコンビニへ立ち寄ったというような状況なら、「日常生活上必要な行為」であると考えられます。

 

よって今回のケースは通勤災害として認められるでしょう。

 

なお、今回のようなケースで重要となるのは「当該逸脱又は中断の間を除き」という文言。
これは逸脱中、中断中は労災とは認められないということを意味しております。
つまり、今回のようにコンビニを出て通勤経路に戻ったあとの負傷であれば労災ですが、コンビニの中で負傷したなどの状況であれば労災とは認定されないのです。

 

 

 

3. ケース3,4:飲み会帰りの事故は、労働災害と認められるのか?

 

 

 

 

ケース3:Cさんは金曜日の退勤後、通勤経路の乗換駅で途中下車して飲み屋に立ち寄った。そこで大学時代の友人とビールを飲んだあとすぐに帰宅するつもりが、駅のホームに向かう階段が混雑しており、前から来た人と肩がぶつかり転倒。その際、体を支えようとした右手首を捻挫してしまった。

 

 

今回のケースは通勤災害かつ逸脱中断中に起きた事故になります。
そして、私的な飲み会への参加は「日常生活上必要な逸脱又は中断である」とは言えないでしょう。

労働者災害補償保険法第7条3項は、通勤途中の逸脱中断によりその後は原則として通勤として認められないということを意味します。

 

通勤経路 → 日常生活上必要な逸脱又は中断 → 通勤経路 であれば逸脱中断中を除き通勤として認められます。

通勤経路 → 日常生活上不要な逸脱又は中断 → 通勤経路 の場合は、逸脱中断する前しか通勤として認められません。

 

よって今回のような、私的な飲み会で通勤経路を逸脱中断したようなケースでは通勤災害に当たらず、労災は認められません。

 

では、参加した飲み会が私的なものでなければどうでしょうか。

 

 

ケース4:Dさんは自分が酔いやすい体質であることを自覚しており、普段からなるべくお酒を飲まないようにしていた。しかしDさんの会社では毎年7月の第3月曜日(海の日)に決起集会があり、そこにDさんも参加して上司から促され多少のお酒を飲むこととなった。決起集会の最中、酔いが回ったDさんは突然意識が遠のきその場で倒れてしまった。病院に運ばれ、診断結果は急性アルコール中毒ということであった。

 

 

 

今回は飲み会の最中に生じた疾病となります。
しかし決起集会のような集まりですと、祝日開催であっても休日出勤というかたちで参加を促される会社も多いのではないでしょうか。
このような会社の集まりで生じた疾病は労災と認定されるのでしょうか。

 

 

 

最高裁平成28年7月8日判決において、会社の歓送迎会からの帰宅途中に交通事故にあい、社員が亡くなったケースが労災と認められました。

 

高裁においては「歓送迎会は会社の従業員有志によって開催された私的な会合であった。また、事故が起こったのは本件歓送迎会のあと同僚を車で送る途中で起きた交通事故であり、本件会社の支配下になかった」とされ、労災とは認められませんでした。

 

しかし最高裁では以下を勘案して、本件事故の際には会社の支配下にあり、本件事故による死亡と運転行為との間に相当因果関係の存在を認めることができるとして、本件は労災にあたると認定いたしました。

 

・本社員は部長から「出席するように」と促され本歓迎会に参加したこと
・当該社員は業務を中断して参加し、本歓迎会に参加した同僚を送ったあとに業務に戻る予定であったこと
・本来なら同僚の送迎は上司が行う予定であったが、この社員が代わって運転した結果起きた事故であること

 

 

 

では今回のケースではどうでしょうか。
・決起集会という公的な会合である
・上司から促されて飲酒している
・飲酒が原因で疾病が発生している

 

そもそも飲み会で生じた負傷、疾病に関して労災が認定された前例は少なく、当該会社において決起集会がどれだけ公的な性格をもつものか、また上司がどれだけ強く飲酒を勧めたかによって結論は変わりうるでしょう。
しかし平成28年判例から鑑みるに、本件決起集会が業務の性格を持ち、業務遂行性と業務起因性が認められれば、今回のようなケースでは労災となる可能性があるといえます。
業務遂行性と業務起因性に関してはケース1をご覧ください。

 

 

 

4. おわりに

 

いかがでしたでしょうか。
真夏に気を付けたい労災に関して、なんとなくご理解いただけたでしょうか。

 

使用者の熱中症対策が義務付けられたり、飲み会帰りの事故が労災と認定される判例が出たりと、労災が認められる範囲はここ数年で広がっているといえるのではないでしょうか。
これは労災ではないかも…とご自分で判断せず、迷ったら労働基準監督署にお伺いしてみてください。

 

しかし労災申請の前にまずは自己管理。
今年も暑い夏になることが予想されます。
水分補給はしっかり、飲み会もほどほどに楽しんで夏を乗り切って下さい!

 

 

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Ari

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大学では主に民事法について学んでいましたが、現在は人事部の分野について勉強中です。趣味は読書。某小さくなった名探偵マンガの主人公の書斎を再現することが夢です。
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