【書籍】人事担当者なら必読『リーダーシップの旅 ~見えないものを見る~』リーダーシップってそんなにすごいものだっけ?

こんにちは。今回は、リーダーシップに関する書籍をご紹介したいと思います。企業のヒトの分野で何かと話題になる「リーダーシップ」ですが、人事業務の中でも新卒採用や評価制度、研修など、様々な領域でテーマになっていますし、その要素についてもある程度、類型化している書籍が多くあります。また、企業経験をつんでいれば、おぼろげながら「こういうヒトはリーダーシップを持っている」といえる基準を持っている方もいると思います。

 

 

『リーダーシップの旅 』を1週間もかけて読んだ結果

多くの方にとってリーダーシップは、限られた人が発揮するもので自分が発揮する必要はないものと感じているのではないでしょうか。今回、ご紹介する書籍『リーダーシップの旅 ~見えないものを見る~』は、人はどのようにしてリーダーシップを発揮していくのか、そのプロセスを旅にたとえつつ、生涯発達の視点から「リーダーシップ」は特別な能力ではなく、だれもが持ち得るものであるとしています。巷には、リーダーシップの要素や重要性、どのようにしたらリーダーシップが身につくかを著したリーダーシップありきの書籍が数多くあると思いますが、本書では、何かを目指した人が周囲を巻き込んで結果的にリーダーシップを発揮していると考えている点が特徴のひとつです。

 

 

その場にいるかのようにリーダーシップを語ってくる2人の著者

著者は以下の二人です。

 

野田智義

リーダーシップ教育を目的とするNPO法人の理事長。独自の全人格リーダー教育プログラムの提供、スピリット溢れる場とコミュニティの運営、社会起業家の発掘・育成・支援といった活動を通じて、世界に貢献できる日本の実現に挑んでいる。

 

金井壽宏

経営人材研究所代表。日本のキャリア研究の第一人者。 専攻は経営管理・経営行動科学。経営学の中でも特にモチベーション、リーダーシップ、キャリアなど、人の心理・生涯発達に関わるテーマを主に研究。神戸大学大学院にて教鞭を取っている。

 

本書は、上記二人が対談を行う形で進行していきます。野田智義がリーダーシップ塾を主宰する立場からリーダーシップの実情を語り、金井壽宏が研究者の立場からリーダーシップに関する論や事例を用いて体系的に解説を加え、人生にとってリーダーシップがどのような意味を持つのかを、次のような章立てで語っています。

 

序章 「リーダーシップ」はなぜ心に響かないのか
第1章 リーダーシップの旅
第2章 なぜリーダーシップが必要なのか
第3章 旅の一歩を阻むもの
第4章 旅で磨かれる力
第5章 返礼の旅

 

 

金井・野田「リーダーシップってもっと身近だし誰でもできるからみんなやればいいのに」

この本を読んでいて、自分の就職活動のことが思い出されました。書類選考のエントリーシートで「最も力を入れて取り組んだこと」「一番がんばった事」というようなお題で、リーダーシップを発揮したようなエピソードを求められていたなぁと思います。その頃、自分は部活動のある責任者にあったので、その活動内容を書いていましたが、今思うと「何か責任者として活動した」=「リーダーシップを発揮した」と無意識のうちに考えていたのかもしれないと思います(実際、部活動での活動があるから就職活動準備はできている!と考えていました。。今振り返るとそんなわけないのですけれど)

 

序章では、「リーダーシップほど期待と幻想に満ちた概念はない」として、世間にあふれる「すごいリーダー幻想」を指摘します。歴史上の人物や偉人(戦国時代の織田信長やインド独立のガンジーなど)が、ビジョンを示し、周囲を巻き込んで国や世界に影響を与える何かを成し遂げたことを例に取上げ、そういった人物のすごい結果ばかりがリーダーシップだと考えてしまうから、リーダーシップは「自分とは関係のないものだ」と多くの人が感じてしまうと主張しています。

 

偉人の結果論で語られがちなリーダーシップを「旅」という比喩で捉え直し、誰しもが自分の人生の主役であり、その「生き様を問う」ことがリーダーシップであると提示しています。読んでいると、有名な企業の事例や偉人の業績、その分野で著名な学者のカタカナの論を多く引用していて読みづらい部分はありますし、「生き様を問う」なんて少し大げさで、ちょっと読んでいる人を引かせてしまうような気もしますが(笑)、リーダーシップの解釈に新しい気付きをもたらそうとする姿勢を感じます。

 

リーダーシップは「旅」であるということですが、これは次のような考えのようです。

「リーダーシップは「見えないもの」を見る旅だ。ある人が「見えないもの」、つまり現在、現実には存在せず、多くの人がビジョンや理想と呼ぶようなものを見る、もしくは見ようとする。そして、その人は実現に向けて行動を起こす。~中略~ 旅はたった一人で始まる。フォロワーは旅の途中で現れる。リーダーと出会い、一緒に旅をする。しかも、この時点で、しばしばリーダーは自分のリーダーシップに気付かない。見たいものを見、やりたいことをやり、自身が描く目標に向かって歩いているだけで、自分がリーダーシップを発揮しているとは意識しない。~中略~ その中で、リーダーが見る「見えないもの」がフォロワーにも共感され、いつしかフォロワーの目にも「見えないもの」が見え始める。」

 

 

ある人の「~をやりたい!」「~だったら面白い!」という気持ちを基点として、まず自分を引っ張る「リード ザ セルフ」

その人の目標に共感して行動を共にするフォロワーの出現「リード ザ ピープル」

さらにその人の行動が社会などより大きな範囲に影響を与えるようになる「リード ザ ソサエティ」

 

 

以上のプロセスの中で、リーダーが「結果的に」生まれているということです。この視点からリーダーシップを考えてみると、どのようにすればリーダーシップを育てることができるのか見えてきそうですね!

 

 

人事担当者の目線でこの本を読んでみた

昨今、企業人事ではリーダーシップを持つ人材が求められているように感じます。新卒採用の場面ではもちろん、研修のテーマとして、人事考課の基準として、企業風土としてなどなど。より優秀な人材の確保と定着を目的としたとき、先ほどのリーダーシップのプロセスを人事の業務プロセスに組み込んで行くことはいかがでしょうか。

 

採用業務の中では、面接の評価基準に組み込むことで、応募者が過去の経験でどこまでリーダーシップを発揮し、周囲に影響を与えることができたのかを知ることができ、優秀な人材の取りこぼしを防ぐことができます。人事評価の基準に組み込むことでは、自社の社員として目指すべき姿が明確になり、次の目標に向けて社員をモチベートすることができると思います。また、本書を一読することで、人事担当者として、社員の方と接する日常の中で、どういった人物がリーダーシップを持っているのか、あるいは発揮しようとしているのかという視点を養うきっかけにもなると思います。

 

新書としては300ページという分量で、これまた読むのに一苦労なのですが(著者である金井壽宏は文量がすごい。。)、個人的には上で紹介したリーダーシップの考え方よりも、「第2章 なぜリーダーシップが必要なのか」「第3章 旅の一歩を阻むもの」が好きです。第2章では、環境変化に対応していかなければならない今日こそリーダーシップは求められているとしつつ、企業という組織の同化力(風土による社員の均質化、のようなもの)はリーダーシップを育むには適していないという点を、組織の安定性と持続を役割とするマネージャーと対比のなかで論じています。何か、企業の中でリーダーシップを育てるヒントがあるような気がしました。

 

また第3章では、リーダーシップが重要と思いつつ、なぜ行動に移せていない人が多いのか、ということを「不毛な忙しさ」という考え方で説明しています。一言で言うと、リーダーシップにつながる「やりたいこと」が見つかったとしても、それまでに蓄積した信用を守ったり、忙しさを言い訳にして行動しないことを指しています。自分にもあてはまることがあるなぁと自省しつつ、何か変化を起こしたいときには、意識的に時間を取ってほんとうに少し(メール1本打つとか、そのことについてちょっと話すとかのレベル)でも継続的に行動すれば、きっと成果やその後のリーダーシップを発揮することにつながるんだろうな、と企業に属する者として思いました。

 

 

「企業人事にリーダーシップを活用したいのだけれど」「新人事担当者にリーダーシップを教えたい」という人事の方から「リーダーシップってなんだっけ?」「行動に移す情熱を失ってしまった」という企業で働く人まで、おすすめの1冊です。

 

 

 

 

The following two tabs change content below.

堀越 敬太

給与計算、社会保険手続にて3000名から100名までの規模を経験し業務フローの改善に従事する傍ら、社内研修の運営にも参画。人事情報のトレンドをお届けいたします。

最新記事 by 堀越 敬太 (全て見る)


公開日:

日常業務に関するちょっとした疑問から、コンプライアンス、人事戦略まで、お気軽にご相談ください。

無料労務相談のお申し込みは、以下のバナーからどうぞ!
無料労務相談のお申し込み
PAGE TOP ↑