【施行から3年】高度プロフェッショナル制度を導入する際の注意点を解説!

近年グローバル化やDX化に加え、新型コロナウイルス感染症の拡大により、働き方の多様化が大きく進んでいる状況です。そうした多様化に対応するため、フレックスタイム制やテレワーク、裁量労働制、短時間勤務制度など様々な働き方の仕組みや制度が存在します。今回はそうした制度の1つである高度プロフェッショナル制度について、どういった制度なのか、導入するメリット・デメリット、導入する際の注意点等解説していきます。

 

高度プロフェッショナル制度とは?

高度プロフェッショナル制度は、「高度の専門知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象として、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度」として、2019年4月の改正労基法施行の際に導入されました。

高度プロフェッショナル制度を導入する際には対象となる労働者や導入手続きの細かい要件があるので、確認していきましょう。

 

対象となる労働者

制度の対象者は、「高度の専門手知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるもの」として労規則で定める業務に従事し、なおかつ1年間あたりに支払われる賃金額1,075万円以上の者とされています。

具体的な業務内容については、厚生労働省によると以下の5つが挙げられています。

 

①金融工学等の知識を用いた金融商品開発業務

②⾃らの判断で有価証券を売買、運⽤するトレーダーやディーラー

③専門知識に基づき投資の助言を行うアナリスト

④経営戦略の助言・支援を行うコンサルタント

⑤新技術、商品、サービスの研究開発

 

ただしここに挙げられている業務に該当していても、出退勤の時間や残業に関する業務命令、作業⼯程等の⽇々のスケジュールに関する指示等、使⽤者から具体的な指示を受けて⾏うものは、対象業務とならないとされています。

あくまで、働く時間帯や時間配分について自分で決定することが出来る広い裁量が労働者に認められている業務でなければならない点に注意が必要です。

 

労使委員会の設置・決議

高度プロフェッショナル制度を導入するためには、まず使用者と労働者を代表する委員で構成される労使委員会を設置し、委員の5分の4以上の多数により必要事項を決議する必要があります。

項目は以下の通りです。

 

  1. 対象業務
  2. 対象労働者の範囲
  3. 健康管理時間の把握
  4. 休日の確保
  5. 選択的措置
  6. 健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
  7. 同意の撤回に関する⼿続
  8. 苦情処理措置
  9. 不利益取扱いの禁⽌
  10. その他厚⽣労働省令で定める事項

 

例えば「3. 健康管理時間の把握」では労働した時間との合計(健康管理時間)をタイムカード等による一定の方法で把握することや、

「4 .休日の確保」では事業場内および事業場外において4 週間を通じ 4 日以上かつ 1 年間 を通じ 104 日以上の休日を与えることが義務付けられています。

 

また、対象労働者の長時間労働の防止、健康状態の管理のため、「5.選択的措置」では

 

①24時間について11時間以上の継続した一定時間以上の休息時間(勤務間インターバル)を労働者に与えるものとし、かつ、1カ月について深夜業は4回以内とすること

②1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合にはその超えた健康管理時間が1カ月100時間、3カ月240時間を超えないようにすること

③1年に1回以上の継続した2週間の休日を与えること

④1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合における、その超えた時間が1カ月当たり80時間を超え、又は対象労働者の申し出があったとき、一定の健康診断を実施すること

 

以上のいずれかの措置を講ずることが義務付けられています。

 

加えて、医師による相談窓口設置等の健康福祉確保措置(「6.健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置」)が決議事項として設けられています。

労使委員会の決議は、所定の様式により管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

 

高度プロフェッショナル制度では、労働基準法の適用除外となるため、1日当たりの労働時間の規制や休日の規定が適用されません。そうした場合、長時間労働に起因する病や過労死が生じるリスクがあるため、適用対象者の健康状態の把握と管理義務が使用者に課せられています。

 

対象労働者の同意

労使委員会の決議後、対象労働者に高度プロフェッショナル制度を適用するには、個別に労働者本人の書面での同意を得る必要があります。その際、高度プロフェッショナル制度の概要や、労使委員会での決議内容、同意した場合の賃金・評価制度等を書面で明示し、労働基準法第4章の規定が適⽤されないこととなる旨や制度の対象期間、賃金額についての同意書に署名を得なければなりません。

 

制度を導入するメリット・デメリット

高度プロフェッショナル制度の導入には以下のメリット、デメリットがあるとされています。

 

メリット

・労働生産性の向上

高度プロフェッショナル制度では労働時間によって報酬が左右されないため、労働者にとっては効率性を求めて短時間で成果を上げようとするモチベーションが高まり、労働生産性が向上する効果が期待されています。

 

・成果型賃金による不公平感の軽減

日本の多くの企業では、成果や業績に関係なく残業時間を含めた労働時間に応じた賃金制度を適用しているため、効率よく成果を上げている社員ほど残業時間が発生せず、待遇に差が生じる可能性があります。高度プロフェッショナル制度では成果そのものによって評価されるため、自分の頑張りがそのまま評価に直結することから評価の不公平感がなくなることが考えられます。

 

・ワークライフバランスの実現

高度プロフェッショナル制度が適用される社員は出退勤の時間や休暇等広い裁量で自由に決定することができます。働きながらの育児、介護の実現や在宅勤務に変更する等、自由な働き方が出来ることが挙げられます。

 

デメリット

・長時間労働の懸念

労働時間にとらわれない自由な働き方が出来る一方で、それによる長時間労働の常態化が懸念されています。高度プロフェッショナル制度では1日あたりの労働時間の規制がなくなるため、成果が出るまで働き続けることになり、労働時間が結果的に長くなってしまう可能性があります。

 

・成果、評価基準が分かりにくい

高度プロフェッショナル制度の対象とする業務の中には、研究開発といった成果が出るまで年単位の期間を有する業務があります。そうした場合、評価の基準が不明瞭となり適正な評価が報酬として反映されない可能性があります。

 

まとめ

最後に、参考として高度プロフェッショナル制度の適用状況を紹介します。厚生労働省の2019年4月1日の施行から2021年3月31日までの間に受理した高度プロフェッショナル制度の決議届及び定期報告によると、2021年3月末時点で、同制度の導入企業数は20社、対象労働者数は552人に留まっています。

背景としては、対象業務・労働者の要件が厳しいこと、労使委員会の決議事項の煩雑さから制度の適用が進まないことが挙げられます。

 

ただ昨今の情勢によるテレワーク等の増加、情報通信技術の発展により産業構造の急速な変化とともに、働き方が多様化していく中で、高度な専門性を持つホワイトカラー労働者が十分に能力を発揮できる環境を提供するといった意味では、従来の労働時間による賃金制度ではなく、高度プロフェッショナル制度を適用することは、有効な選択肢の1つであると考えられます。

 

弊社では給与計算、社会保険手続きのみならず、評価・賃金制度のコンサルティングも承っております。今回ご紹介した高度プロフェッショナル制度の導入や人事制度の改革を検討されている企業、人事担当者の皆様はぜひお気軽にご相談ください。

 

 

・厚生労働省パンフレット:高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説

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