その身元保証書ほんとに有効?2020年4月民法改正による変更点とは
4月に新入社員を迎える時期も近づいてきて、入社書類を準備している会社も多いと思います。その入社書類で身元保証書の提出を義務付けている会社も多いのではないでしょうか?
では実際に身元保証書がどのような意味をもっているのか知っていますか?さらに今年は民法の改正により身元保証書に大きな影響があるのをご存じでしょうか。
身元保証契約は企業にとっていざというときのために必要な契約ですが、実は身元保証書をもらって終わりではなく、その後の運用をしっかり行うことが重要です。内容や書類の意味を把握したうえで民法改正による変更点を理解していきましょう。
1、身元保証契約とは
身元保証契約とは、雇用される人物(被用者)が故意または過失によって会社に損害を与えた場合、第三者である身元保証人が連帯してその賠償責任を負うという契約です。
また、身元保証契約には社員がその会社でまじめに業務に励み、誠実に職務を行うことを誓約し、その内容を保証人が保証することで「保証人に迷惑をかけてはならない」というプレッシャーにより社員の気持ちを引き締め、不正の抑制を狙う面も持ち合わせています。
具体的には、
- 会社のお金を使い込んだ場合
- 会社が管理している個人情報を漏洩させてしまった場合
- 会社備品を壊してしまった場合
などの損害賠償のほかにも
- 無断欠勤で社員と連絡がつかない場合に連絡をとってもらう
- トラブル時、社員と会社の仲介
- 病気休職中の健康管理の支援
このように社員と会社の橋渡しなどにも活用されている会社もあるでしょう。
【身元保証契約の留意点】
身元保証契約は、以下の内容を網羅していない身元保証契約は無効となる可能性があります。
- 保証契約には有効期限があり期間を定めた場合、最長で5年間有効。(ただし期間の定めがなければ有効期間は3年)契約書に5年以上の期間の記載があった場合でも、最長5年で打ち切られます。
- 身元保証契約を有効なものとして維持するためには、有効期間を明記し管理を行い、契約延長の必要な場合には再度契約しなおす必要があります。(自動更新不可)
- 「被用者に業務上不適任や不誠実な事柄があった場合」「被用者の任務や任地を変更があった場合」には、遅滞なく身元保証人に通知する義務があります。
【身元保証人による責任範囲は?】
実際に社員が会社に損害を与えた場合でも、身元保証人に対してそのすべての賠償責任を求めることができるわけではありません。
- 事業主側の監督責任において過失がなかったか
- 身元保証人が身元保証を引き受ける際にどの程度の注意を払ったか
- 身元保証人が身元保証を引き受けた経緯と事情
などの事情を総合的に判断し、裁判所が社員と身元保証人の責任範囲、事業主の監督責任を明らかにします。
2、民法改正での変更点
今回の改正民法は制定以来約120年ぶりの抜本的な改定で、その影響は大きく、労務管理の分野にも少なからず影響があります。
改定される民法では「個人保証人の保護強化」を目的に、極度額(上限額)の定めのない個人根保証契約は無効になる旨を新たに定めました。
※「個人根保証契約」とは・・・金額がいくらになるかが保証人になる時点ではわからず、連帯保証人として実際いくらまで責任を負う可能性があるのかもわからない状況になる契約で、継続的な取引から将来発生する不特定の債務をまとめて連帯保証するケースを「根保証契約」といい、根保証契約で連帯保証人が個人であるケースを「個人根保証契約」といいます。
最悪の場合保証人が破産する可能性もあり、このような不測の事態から保証人を守るために民法が改正されました。
上記のように身元保証契約は、保証人にとっては従業員が「いつ」「どのような」責任を負うのかを予想することができず、改正後の民法が定める「根保証契約」に該当します。
ですので2020年4月より身元保証契約は賠償の極度額(上限額)を定めなければ無効となってしまいます。
3、今後の対応について
今回の改正に対し、会社の対応としては以下の対応が考えられます。
1、賠償額の上限を記載する運用へ変更
具体的な金額で契約することと、口約束ではなく書面で契約を締結することは必須ですが、具体的な定め方・上限額の定めはありません。
賠償額の上限を記載する運用へ変更する場合は、少額では契約の意味がなくなりますし、あまりにも高い金額ですと保証人になってもらえる人を探すことが困難になり、運用が現実的ではありません。業種や業務の内容によって、会社ごとに適切な金額を定める必要があります。
2、被用者の信頼性の保証のみにする(賠償に関する記載をなくす)
そもそも身元保証契約は何のために必要なのか・目的を再度見直し、損害賠償の記載を削除して生活面の指導の内容のみ記載するということを検討することも必要です。
3、運用体制のチェック
さらに、保証書がきちんと管理されているのか・契約期間の確認もおこなう必要があります。
どの従業員の身元保証契約がいつまで有効なのかを把握し、契約満了だが今後も保証契約が必要な場合は再度契約書を作成し締結しなおす必要があります。この時、自動更新はできませんのでご注意ください。
4、注意点
今回の身元保証に関する改正は、2020年4月1日の施行であり、それまでに締結された身元保証契約は、改正前の民法が適用となります。すでに提出されている身元保証書を契約しなおす必要はありません。
今回の民法改正が適用されるのは4月以降に新しく締結した保証契約です。この機会に一度身元保証契約する目的について見直し、早めの対応・準備をしていきましょう。
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