御社がもし10人の事業場だったら~労働者が10人になると増える義務~【前編】
少人数で始まった会社経営も、事業を軌道に乗せて従業員も多く、会社も大きくしていきたいもの。
その一つの節目として、従業員が10人いるかいないかというのは、心理的にも法的にも大きな違いがあります。
10人以上の事業場に増える義務としては就業規則の作成義務が有名ですが、実は他にもいくつかあるのです。
今回は、従業員が10人以上となった時の5つの法的な義務についてご説明いたします。
*50人以上となった時に増える義務については【御社がもし50人の事業所だったら~労働者が50人になると増える義務~】をご覧ください
1. 就業規則の作成、届出、周知義務
労働基準法第89条において、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則の作成と届出の義務がある旨、規定されております。
条文を確認いたしましょう。
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労働基準法 第89条
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
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常時10人以上とは、 時としては10人未満になることはあっても、常態として10人以上の労働者を使用している場合も当てはまります。
10人として数えられる労働者の中には、パートタイマーやアルバイトなども含まれますが、役員は使用者として定義されているため、就業規則の作成義務が発生する人数としては数えられません。
①就業規則の作成の注意点
就業規則とは職場内のルール等を定めた規則集になります。
その内容において、職場の実態とかけ離れているものや、法律を違反しているものはもちろん認められません。
また、 基本的には職場で働くすべての労働者に適用されるものとして作成する必要がありますが、パートタイマーなど雇用形態によって労働条件が異なるという場合もあるかと存じます。
その際には就業規則に「パートタイマーは本規則は適用せず、個別労働契約書にて記載する」「パートタイマーに関する就業規則は別に定める」などを明記しておく必要があります。
記載事項の注意点としては、就業規則には絶対的記載事項と相対的記載事項の両方が記載されていなければなりませんので、確認が必要です。
【絶対的記載事項】 : 就業規則として必ず記載されていなければならない事項
① 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇
並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
② 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の
締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
③ 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
【相対的記載事項】 : 企業の実情など必要に応じて記載されていなければならない事項
① 退職手当に関する事項
② 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
③ 食費、作業用品などの負担に関する事項
④ 安全衛生に関する事項
⑤ 職業訓練に関する事項
⑥ 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
⑦ 表彰、制裁に関する事項
⑧ その他全労働者に適用される事項
②就業規則の届出の注意点
就業規則は、 作成とは別に行政官庁への届け出の義務がございます。
また、届け出の際には作成した就業規則とともに、労働組合または労働者の過半数を代表する者からの意見書を添付しなければなりません。
条文を確認いたしましょう。
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労働基準法 第90条
使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
○2 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。
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就業規則は労働者側の意見を聞いたという証明になる書類が意見書です。
更に、就業規則は作成と届け出後に、各作業所の見やすい場所への掲示、備え付け、書面の交付などによって労働者に周知しなければなりません(労働基準法第106条)。
これらの規定は、就業規則は社内ルールとして、その作成も運用も企業の一方的なものであってはならないということに他なりません。
就業規則は一度作成、届出をしてしまうと簡単に変更するということもできませんので、慎重に作成いたしましょう。
就業規則の周知義務については【【実質的周知?】作って終わりではいけない!就業規則の周知義務!】をご覧ください。
③就業規則は変更の際にも義務がある
一度作成した就業規則にも、見返してみると加筆修正をしたい箇所が出てくるかもしれません。
もちろん、作成をしてからしばらく経ったことで就業規則通りに会社経営ができなくなった、というような状況も考えられます。
法改正への対応も必要です。
そのような場合には、就業規則の変更が必要となります。
就業規則を変更した際にも先述した作成、届出、周知義務は同様であることに加え、その変更内容には注意が必要です。
就業規則の変更において問題となるのは、変更後の内容が従業員にとって以前よりも悪条件となっているというような、不利益変更であった場合です。
労働基準法上、従業員にとって不利益な変更を禁止しているわけではありませんが、不利益な変更は合理的な変更と認められる場合に限って効力を有する、とする判例がございます。
就業規則は労働者の同意を得ずに一方的に不利益に変更することはできず、かつ当該変更が合理的でなければ効力を発しないのです。
また、法令又は労働協約に反する内容を規定した就業規則に対しては、行政庁は内容の変更を命じることができるとしていますので、その点も注意が必要です(労働基準法第92条)。
2. 安全衛生推進者・衛生推進者の選任
常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場では、安全衛生推進者、または衛生推進者を選任しなければなりません。
条文を確認いたしましょう。
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労働安全衛生法 第12 条の 2
第十二条の二 事業者は、第十一条第一項の事業場及び前条第一項の事業場以外の事業場で、厚生労働省令で定める規模のものごとに、厚生労働省令で定めるところにより、安全衛生推進者(第十一条第一項の政令で定める業種以外の業種の事業場にあつては、衛生推進者)を選任し、その者に第十条第一項各号の業務(第二十五条の二第二項の規定により技術的事項を管理する者を選任した場合においては、同条第一項各号の措置に該当するものを除くものとし、第十一条第一項の政令で定める業種以外の業種の事業場にあつては、衛生に係る業務に限る。)を担当させなければならない。
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林業や鉱業、建設業など政令で定められている業種においては安全衛生推進者を、それ以外の業種においては衛生推進者を選任します。
これらは安全管理者や衛生管理者の選任が義務づけられていない、常時10人以上50人未満の労働者を使用する中小規模の事業場の安全衛生水準の向上を目的として、選任が義務付けられております。
そのため、誰を選んでもいいということはなく、以下のような資格を取得していることが選任の要件となります。
(1)大学又は高専卒業後に1年以上安全衛生の実務に従事している者
(2)高等学校又は中等教育学校卒業後に3年以上安全衛生の実務に従事している者
(3)5年以上(安全)衛生の実務に従事している者
(4)安全衛生推進者養成講習・衛生推進者養成講習を修了した者
(5)安全管理者及び衛生管理者・労働安全コンサルタント・労働衛生コンサルタントの資格を有する者
安全衛生推進者又は衛生推進者は、選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任しなければなりません。
注意が必要なのは、原則としてその事業場に専属の者を選任しなければならないということ。
*ただし、上記の(5)にある労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタントなど、厚生労働大臣が定める者のうちから選任する時はこの限りでありません。
また、作業場の見やすい箇所に氏名を掲示し腕章や名札を着用する等により関係労働者に周知することが必要となります。
選任に関して所轄の労働基準監督署への報告義務はありません。
安全衛生推進者及び衛生推進者は、安全衛生業務について権限と責任を有する者(社長、工場長等)の指示を受けて、以下の職務を担当します。
(1)労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること。
(2)労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること。
(3)健康診断の実施その他の健康の保持増進のための措置に関すること。
(4)労働災害防止の原因の調査及び再発防止対策に関すること。
等です。(衛生推進者については、衛生にかかる業務に限る。)
3. 前編のおわりに
いかがでしょうか。
まずは以下2点についてご確認をいただきました。
・就業規則の作成、届出、周知 (変更の場合も同様)
・安全衛生推進者または衛生推進者の選任および関係労働者への周知
御社がもし10人の事業場だったら~労働者が10人になると増える義務~【後編】(リンクから記事に飛べます)では、以下3点についてご説明いたします。
・労働基準法の特例措置の非該当に対応した労働条件の見直し
・源泉所得税と住民税の納期の特例の非該当に対応した手続き
・附属寄宿舎の設置、移転、変更の際の届け出義務、ならびに寄宿舎規則の作成、届出、周知義務
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【【実質的周知?】作って終わりではいけない!就業規則の周知義務!】
Ari
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