【実質的周知?】作って終わりではいけない!就業規則の周知義務!
会社の運用には欠かせない就業規則。
間違いのないものを作成しなければならない分、大変骨が折れますし、外注するという企業も多いのではないでしょうか。
しかしその内容もさることながら、気を付けなければならないのは作成した就業規則を労働者に周知させなければならないということ。
穴のない就業規則を作成したとしても、周知をさせなければその効果を発することができません。
今回はそんな就業規則の周知義務について、判例をもとに解説したいと思います。
1. 就業規則の作成、届出義務
労働基準法第89条には、就業規則の作成と届出の義務が規定されております。
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労働基準法 第89条
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
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条文はこの後、就業規則に必ず載せなければならない「絶対的記載事項」を列挙していきます。
常時10人以上の労働者を使用する企業は、この絶対的記載事項を載せた就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければなりません。
また、その定めをするのであれば必ず記載しなければならない「相対的記載事項」を載せ、労働組合や労働者の過半数を代表する者に意見の聴取をして届出の際に当該意見を記した書面の添付も必要です。
しかし、これらはあくまで就業規則としての形を成すための要件であり、何らかのトラブルが起きた際に就業規則がその効力を発するためには、事業場で働く労働者にその内容を周知させておかなければなりません。
では、就業規則の周知義務とは一体なんなのでしょうか。
2. 就業規則の周知義務とは
労働基準法第106条において、就業規則は労働者へ通知しなければならない旨、規定されております。
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労働基準法 第106条
使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、第十八条第二項、第二十四条第一項ただし書、第三十二条の二第一項、第三十二条の三、第三十二条の四第一項、第三十二条の五第一項、第三十四条第二項ただし書、第三十六条第一項、第三十七条第三項、第三十八条の二第二項、第三十八条の三第一項並びに第三十九条第四項、第六項及び第七項ただし書に規定する協定並びに第三十八条の四第一項及び第五項に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。
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そもそも就業規則を作成する目的として、労働者の労働条件や職場の規定を明らかにし、それを労使間で共有することで無用な紛争を防ぐということが挙げられます。
また労働者の無知に乗じた不正、不当な取り扱いがなされることを防止することも必要です。
そのためにはただ作成するだけでは意味がなく、労働者に内容を伝えて初めて就業規則の存在意義が示されるのです。
周知されていない就業規則に基づく懲戒解雇処分を無効とする判例が出ております。
判例:フジ興産事件 最二小判平15.10.10
概要:
職場秩序を乱したこと等を理由として、従業員Aが懲戒解雇処分を受けた。
当該処分はAの会社の就業規則の懲戒処分に関する規定に基づいて行われたものであるが、就業規則は本社のみに存在しAが勤務する事業場には存在しないという状況であった。
最高裁は「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する。」
「そして、就業規則が法的規範としての性質を有するものとして拘束力を生ずるためには、その内容を、適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが採られていることを要する。」として本件懲戒解雇を有効とする原判決を破棄・差戻しとした。
当判例により、就業規則の効力を発するためには、労働者への周知が不可欠であることがわかります。
では、「就業規則を労働者に周知させる」とは、具体的にどのように行えばいいのでしょうか。
3. 周知の方法は?
周知の方法は 労働基準法施行規則に規定されている、次のいずれかの方法によらなければなりません。
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労働基準法施行規則 第52条の2
法第106条第1項の厚生労働省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。
1 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
2 書面を労働者に交付すること。
3 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
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前述の判例では従業員の属する事業場に就業規則がなかったことで「周知がない」と判断されました。
他の判例においては以下のような場合に「周知」が認められています。
判例: 日音退職金請求事件 東京地判平18.1.25
概要:
退職した従業員Bらが賃金規定に基づき退職金の支払いを請求したところ、就業規則に記載のある退職金不支給条項に該当する事由があったとして会社は支払を拒否した。
Bらは懲戒解雇により退職しており、その場合は退職金は支給されない旨が就業規則に記載されている。
地裁は「就業規則が法的効力を有するためには、従業員代表者の意見聴取、労基署への届出までは要せず、従業員に対し、実質的に周知の措置がとられていれば足りると解するのが相当である。」
「そして、ここにいうところの実質的な周知とは、従業員の大半が就業規則の内容を知り、又は知ることのできる状態に置かれていれば足りると解するのが相当である。」と見解を述べている。
① 実質的周知とは
本判例においては「実質的な周知」を以下のように述べております。
1. 上司の机の引出しの中に就業規則が保管されていて、いつでも上司を通じて閲覧することができた。
2. 書棚に置かれており、書棚には鍵はかかっていなかった
3. 就業規則のある場所を従業員が認識していた
先の判例も含め、周知と言えるかどうかは「従業員が見たいと思ったときに見られる状態にあるか」が一つのポイントであることが考えられます。
また、別の判例においても実質的周知の有無について争われたものがあります。
判例:中部カラー退職金請求事件 東京高裁平成19.10.30判決
概要:
退職した従業員Cに支払うべき退職金に関し、退職金について定められた就業規則の変更が実質的に周知されていなかったとして、裁判所は当該変更後の就業規則の効力を否定した。就業規則の変更に関して、会社は朝礼での2度のアナウンスと質問等の有無の確認を行った上で、変更後の就業規則を従業員休憩室に常時備え置いたとしている。
しかし裁判所は「当該変更は中途退職者の退職金が大幅にカットされる内容であり、支給条件の変更も含めてそのデメリットや計算方法が十分に説明されていなかった。」
「仮に従業員休憩室の壁に当該就業規則が掛けてあったとしても、Cを含む従業員に対し退職金の計算について実質的周知がされたものとはいえない。」のと判断を下している。
本判例では従業員が見られる場所に就業規則があるというだけでなく、不利益変更の場合には従業員にその内容を理解させる行動がなければ、実質的周知は認められないと判断しております。
一見、労働基準法施行規則第52条の2の条件は満たしているようにも見えますが、「実質的」な周知でなければ就業規則はその効力を発揮しませんので気を付けましょう。
4. おわりに
いかがでしょうか。
条文を一読しただけではわからない、就業規則の周知義務についてご理解いただけたでしょうか。
いくら就業規則の内容に問題がなくとも、「周知をさせていなかった」という理由でその効力が発揮されないのでは意味がありません。
労使間で共有をして正しい運用をしていきましょう。
Ari
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