人事制度の運用適正化

人事制度を適正に運用するために、社員の心理的な抵抗を減らし、スムーズに受け入れられる方法はありますか?

回答

多くの企業では、人事制度の見直しや運用の適正化に取り組む際、社員の理解や納得感を得ることが難しいという課題に直面します。特に、新たな評価基準や昇進・昇給のルールが導入されると、社員が「なぜ変わるのか?」「この基準で本当に公平なのか?」と不安を抱くことがあります。

社員の心理的な抵抗が高まると、以下のような問題が発生しやすくなります。

・人事制度に対する不信感が生まれ、モチベーションが低下する
・評価に対する不満が増え、「頑張っても報われない」と感じる
・制度を運用する管理職が、社員との関係性を悪化させるのを恐れて適切に機能させられない

これらの問題を防ぎ、スムーズに人事制度を浸透させるには、単に制度を説明するだけでなく、社員の心理に配慮したアプローチが不可欠です。

では、どのようにすれば、社員の抵抗を減らしながら、適正に運用できるのでしょうか?


1. 変更の「納得感」を高めるための情報共有を徹底する

人は、「理解できないもの」や「突然の変化」に対して強い抵抗感を持つ 傾向があります。そのため、新しい人事制度や評価基準を導入する際は、社員に対して「なぜ必要なのか?」 をしっかり伝えることが重要です。

(実施策)
・変更の背景をストーリーで説明する
「企業の成長に合わせて、より公正で納得感のある評価制度を作る必要があった」など、なぜ今、変更が必要なのかを論理的に説明することで、不安を軽減できます。
・事前の説明会やQ&Aセッションを設ける
ただ一方的に通知するのではなく、社員が疑問を解消できる場を設ける ことで、「自分も意見を言える」と感じ、制度への納得感が高まります。
・視覚的な資料を活用する
「どのような評価基準があり、どのように昇進・昇給が決まるのか」を フローチャートや図で示す と、社員が理解しやすくなります。

これにより、「会社が一方的に決めた」という印象を減らし、社員の理解と納得を得やすくなります。


2. 「公正さ」を意識したフィードバックの仕組みを整える

制度が適切に設計されていても、実際の運用で「評価が不透明」「フィードバックが曖昧」では、社員の不満は高まります。そのため、評価結果に納得感を持たせるには、明確なフィードバックの仕組みを整えることが不可欠です。

(実施策)
・評価後のフィードバック面談を義務化する
「何が評価され、どこを改善すべきか」を具体的な言葉で伝える ことで、社員が成長の方向性を理解しやすくなります。

・数値だけでなく、プロセス評価を重視する
目標達成度だけでなく、「どのように取り組んだか」を評価に組み込むことで、社員が努力を正当に評価されていると感じやすくなります。

・フィードバックは「対話型」にする
一方的な指摘ではなく、「どうすればさらに良くなるか」を社員と一緒に考える形にすることで、前向きな姿勢を引き出せます。

特に、「評価=ジャッジ」ではなく、「評価=成長の機会」という意識を醸成することが重要です。

(参考)一部
アプローチ別コーチング
●行き詰まり感のある社員、解決策を見つけられない状況
「解決志向型コーチング」
問題ではなく解決策と望ましい未来に焦点を当てる
・「例外の質問」: 「問題が起きていない時は何が違いますか?」
・「ミラクル・クエスチョン」: 「明日起きた時に問題が解決していたら、何が違っていますか?」
・成功体験を掘り下げる: 「以前同様の状況をうまく乗り切った時、何がうまくいきましたか?」
フレームワーク:OSKAR・SOLUTION

●自信不足、完璧主義、不安を抱える社員
「認知行動的コーチング」
非生産的な思考パターンを特定し変化させる
・思考記録: 「その状況でどんな考えが浮かびましたか?」
・思考の再構成: 「その考えを裏付ける証拠は?別の見方はありますか?」
・行動実験: 「その考えを検証するために小さな一歩として何ができますか?」
フレームワーク:ABCDEFモデル・SPACEモデル

その他のコーチング手法:行動コーチング、ナラティブコーチング、動機づけ面接法、ポジティブ心理学コーチング など


3. 管理職の「心理的負担」を軽減し、適正な運用を促す

人事制度を適正に運用するためには、評価を担当する管理職が「しっかり運用できる環境」を作ることも重要です。管理職自身が、「評価を下すのは気が重い」「どう説明すればいいかわからない」と感じると、適切なフィードバックができず、制度が形骸化してしまいます。

(実施策)
・管理職向けの評価トレーニングを実施する
「評価の伝え方」「フィードバックの方法」など、具体的なスキルを学べる場を設ける ことで、管理職の不安を軽減できます。

・評価者同士のディスカッションの場を作る
「どういう基準で評価するか」「難しいケースの対応方法」など、評価者同士で意見交換できる場を作ると、評価のブレを防ぐことができます。

・管理職が社員の成長をサポートする仕組みを作る
「単に評価する」のではなく、「どうすれば部下が伸びるか」を考え、サポートできる環境を整えることで、管理職のモチベーションも向上します。

これにより、「評価をする側・される側」双方の心理的負担を軽減し、人事制度の適正な運用につなげることができます。


4.組織全体で「評価は成長のためのもの」という文化をつくる

どれだけ優れた制度を作っても、「評価=処罰」 という認識が根付いていると、社員のモチベーションが下がり、制度がうまく機能しません。そのため、評価の目的を「成長支援」に置くこと が重要です。

(実施策)
・成功事例を共有する
「この評価制度を通じて、○○さんがどのように成長したか」など、ポジティブな事例を社内で共有 することで、評価への印象を改善できます。

・社内研修やワークショップを実施する
「評価を前向きに活用する方法」について、社員同士で考える機会を設けると、評価に対するポジティブな認識が広がります。
こうした積み重ねが、「評価を恐れる」のではなく「成長につなげる」文化を醸成し、人事制度をよりスムーズに運用することにつながります。

【まとめ】
人事制度の適正な運用には、社員の心理的な抵抗を減らし、納得感を高めることが不可欠です。そのためには、以下の取り組みが有効です。

1.変更の「納得感」を高める情報共有
2.「公正さ」を意識したフィードバックの仕組み
3.管理職の心理的負担を軽減し、適正な運用を促す
4.組織全体で「評価=成長支援」という文化をつくる

こうしたアプローチを通じて、人事制度が単なるルールではなく、「社員の成長と組織の発展を支える仕組み」として機能するようになります。
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公開日: 人事制度設計

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