賃金債権の時効見直しにより、経営リスク2.5倍増か

民法改正に伴い賃金の未払いがある状態が引き起こすリスクが大きくなります。現在の賃金債権の時効は2年ですが、この時効を見直そうとする動きがあります。未払い賃金がある場合、これまでは過去2年分を支払うことで足りましたが、時効見直しにより何年とされるかはまだ未定ですが民法を下回ることはないとする見方もあります。仮に民法と同じ年数になる場合は過去5年分の支払い義務が発生します。未払いとは知らずに誤った方法で勤怠管理や給与計算を行っていると、退職した社員から突然内容証明が届き過去5年分の未払い賃金を支払うことになる、なんてことになりかねません。某電力会社では労基署の是正勧告をきっかけに未払い賃金が17億円あることが発覚し支払うこととなったと報道されました。リスクを最低限に抑えるための就業規則の見直しや勤怠システムの導入、管理監督者の明確化、管理職研修など、先手を打ってリスクヘッジしておく必要がますます高まっています。

賃金の未払いは、2年前まで遡及する

賃金の未払いにはどのような種類があるでしょうか。例えば、違法とは知らずに日々の勤怠時間を切り捨てていること。管理監督者の地位を任命していたが実態は管理監督者性がなく、いわゆる『名ばかり管理職』状態で残業代を支払う必要があるのにもかかわらず払っていないこと。または上司が数値目標を達成するために正しい勤怠打刻をさせていないこと。一例ですが、これらが原因で訴訟になり、企業が未払い分を支払ったというケースは数多くあります。このような状況下で社員から未払い賃金を訴訟された場合、賃金未払いが立証されれば賃金債権の時効を根拠に、2年前まで遡って支払うことになります。

労働基準法第115条 この法律の規定による賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権は二年間、この法律の規定による退職手当の請求権は五年間行わない場合においては、時効によって消滅する。

 

この労基法第115条の根拠である民法の第174条1号では、月またはこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権が時効とされています。

民法第174条(1年の短期消滅時効)次に掲げる債権は、1年間行使しないときは、消滅する。

(1)月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権

(2)自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に係る債権

(3)運送賃に係る債権

(4)旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権

(5)動産の損料に係る債権

民法と労基法それぞれ賃金債権の時効が規定されているため混乱しますが、労働基準法が優先されます。労働者保護を理由として、民法で規定されている1年の短期消滅時効を労働基準法で延長した背景があります。労働基準法は特別法であり、ある特定の事項について一般法よりも優先して適用される法律であるため、民法に優先し2年の時効が適用されます。

民法の短期消滅時効が廃止され、労基法115条も見直しへ

平成29年6月2日に交付された民法の一部を改正する法律で、以下のとおり、短期消滅時効を廃止することが決まりました。

  1. 民法における職業別の短期消滅時効(1年の消滅時効とされる「月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権」も含む)を廃止し、
  2. 一般債権については、

(ア)  債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき

(イ)  権利を行使することができるときから10年間行使しないとき

に時効によって消滅することと整理されました。

※短期消滅時効とは

権利関係を迅速に確定するため、民法の時効より短い期間で時効が成立する場合が定められており、これらを短期消滅時効といいます。

 

気になる施行日は、公布の日から起算して3年を超えない範囲内で、政令で定める日とされています。民法の消滅時効の規定が整理されることに伴い、当該規定の特例である労働基準法115条の賃金債権当に係る消滅時効についても、その在り方の検討を行う必要があるとされました。

働き手の権利意識の高まり

インターネット上で簡単に知識が手に入る時代となったいま、労働基準法に詳しい人が増え、未払い残業の違法性を知った社員が訴訟を起こすことが増えています。そこにビジネスチャンスを見出す方々もおり、会社経営者にとっては、リスクを予防することがより重要になってきている背景があります。労基法で、賃金請求権が何年とされるかはまだわかりませんが、仮に賃金請求権が5年と規定された場合、2.5倍の金額となり、訴訟を起こそうとするインセンティブが増えることとなります。

労務リスクを予防すること

リスクを未然に防ぐことが何より重要です。就業規則ひとつにしても、労務リスクを意識し作成することでリスクを最小限に抑えることができます。訴訟が起きたときは、勤怠の打刻時間とPCのログや入退出記録と差を確認されます。退勤の打刻をした後PCを使用している実態や名ばかり管理職である実態はありませんか。勤怠記録を1日単位で切り捨ててはいませんか。ついつい後回しにしてしまう労務面について、一度しっかりと向き合い、例えば労務監査を行い盤石な体制を築き、思わぬところで足をすくわれないよう先手を打つタイミングではないでしょうか。

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本澤 彰一

本澤 彰一

人事制度・分析・シミュレーション担当 制度運用や労務全般の実務を担う ITリテラシー研修講師 人事の分野で使えるエクセル技や法改正情報を掲載中
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